関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2022 Vol.34 No.1
Anterior closing wedge osteotomyを併用した前十字靭帯再々再建術の1例
 はじめに

内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)は、膝蓋骨の第一制動因子でありMPFLが外傷を契機に損傷すると膝蓋骨脱臼や膝蓋骨不安定症が生じる。MPFL再建術には通常ハムストリング(半腱様筋腱 (ST) / 薄筋腱 (G))を移植腱として採取し、良好な臨床成績が得られているが、ST/Gは膝関節深屈曲筋かつ股関節伸展筋でありバレエダンサーのようにパッセやアティチュードなど特殊な肢位をとる競技では、ST/Gを移植腱として採取すると術後のパフォーマンスの低下が危惧される。今回バレエダンサーに対して大腿四頭筋腱(QT)浅層を用いたMPFL再建術を施行したので報告する。

 症例
19歳女性。バレエ中に踏ん張った際に右膝を捻り、初回膝蓋骨脱臼を受傷した。身体所見は身長171cm、体重60kg、可動域は伸展5度、屈曲150度、Patellar ballottement (-)、Patellar grinding (-)、Patellar apprehension sign (+)、J sign grade 1 (+)であった。画像所見はFemorotibial angle (FTA) 176度、Q角 14度、Sulcus angle 143度、Tilting angle 18度、TT-TG distance 13mm、Caton-Deschamps index 1.2であり、解剖学的に明らかな脱臼素因は認めなかった(図1)。脱臼後不安定感持続し受傷後5ヵ月で本再建術を施行した。約3pの横皮切から専用デバイス(KARL STORZ®)で厚さ3 mm、幅10 mm、長さ6.5 cmのQT浅層を採取した後、透視下で大腿骨内顆に骨孔を作製し、翻転させた移植腱を骨膜下および第2層へ通した後、骨孔内へ誘導し膝関節屈曲60度にて緊張、伸展位にて1横指外側に変位する初期張力で吸収性のinterference screwで固定した(図2)。術後X線、CTでは大腿骨骨孔が適切な位置(Schöttleポイント)に作成されていた(図3)。2週間の固定と部分荷重後、ROM訓練を開始し、全荷重を許可した。術後9か月時点で膝蓋骨不安定感なくKujala scoreは95点、筋力は大腿四頭筋が健側比81%、ハムストリング健側比83%で競技復帰に向けてトレーニング中であり、パッセやアティチュードは不自由なく可能である。
図1 術前画像
図2 手術画像
(a.b:専用デバイスで大腿直筋浅層を採取 c:移植腱を骨孔に誘導)
図3 術後画像
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 考察
  膝蓋骨脱臼に対する術式は、MPFL再建術が第一選択であるが、膝蓋骨高位や大腿骨顆部形成不全などの脱臼素因が複数存在する場合は滑車形成術や、粗面移行術、MPFL再建術もしくは組み合わせて行うことが選択される。本症例は脱臼素因がない高レベルのバレエダンサーであり、競技特性を考慮しQT浅層を用いたMPFL再建術を選択した。
一般的にST/Gを用いるMPFL再建術の合併症は、膝蓋骨の骨孔作製に起因する膝蓋骨骨折や腱固定のために使用する内固定金属による刺激症状がある。一方でQT浅層を用いたMPFL再建術は、膝蓋骨の骨孔作製や内固定金属の留置が不要であり膝蓋骨の合併症を回避することが可能である。また、移植腱の破断強度はQT内側>膝蓋腱=QT中央>STG>QT外側の順であり、QTの破断強度はST/Gと遜色ない[1]。また線形剛性は正常MPFLが29.4N/mm、QT浅層が33.6N/mmと近似しているのに対し、ST/Gは87~97N/mmと正常MPFLの約3倍あり術後の疼痛や可動域制限の一因になりえるという報告もある[2]。QT浅層の付着部は膝蓋骨1/3〜1/2であり薄くて平らな構造であるため、本術式はより解剖学的に近い再建術といえ、良好な短期臨床が報告されている[3]。しかしながら、本術式はQT腱の必要な長さが約6 cm以上であり[3]、日本人の1/3が6 cm以下といわれている[4]。本症例は身長171cmの患者で、移植腱の長さは十分あり骨孔内で固定可能であった。
最後に筋力について、本術式はQTを採取することから膝関節深屈曲筋、股関節伸展筋にとって有利であるが、大腿四頭筋の筋力低下が懸念される。QTを用いたACL再建における筋力についてのsystematic reviewおよびmeta-analysisでは5〜8か月時点での膝屈曲筋力は、ST/Gを移植腱とした場合より高値であるのに対し、膝伸展筋力ではST/Gを移植腱とした場合より低値であった。また術後2年時の膝伸展筋力の平均は健側の90%以下と報告している[5]。本症例でも術後9か月時点で伸展屈曲筋力とも対健側比で90%以下であり、今後もリハビリテーションにて筋力トレーニングの継続を行い、QT浅層採取によるMPFL再建術のパフォーマンスの影響に関して注意深い経過観察を要する。
 結語
  バレエダンサーの初回膝蓋骨脱臼に対しQTを用いたMPFL再建術を行い、良好な術後短期成績を得た。今後中長期の経過観察を要する。
 参考文献
[1] Chivot M, Pioger C, Cognault J, et al. Every layer of quadriceps tendon’s central and medial portion offers similar tensile properties than Hamstrings or Ilio-Tibial Band Grafts. Journal of Experimental Orthopaedics. 2020;7(1).
[2] Herbort M, Hoser C, Domnick C, et al. MPFL reconstruction using a quadriceps tendon graft: part 1: biomechanical properties of quadriceps tendon MPFL reconstruction in comparison to the Intact MPFL. A human cadaveric study. Knee. 2014 Dec;21(6):1169-74.
[3] Fink C, Steensen R, Gföller P, et al. Quadriceps Tendon Autograft Medial Patellofemoral Ligament Reconstruction. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2018;11(2):209-20.
[4] Yamasaki S, Hashimoto Y, Han C, et al. Patients with a quadriceps tendon shorter than 60 mm require a patellar bone plug autograft in anterior cruciate ligament reconstruction. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021 Jun;29(6):1927-35.
[5] Johnston PT, McClelland JA, Feller JA, et al. Knee muscle strength after quadriceps tendon autograft anterior cruciate ligament reconstruction: systematic review and meta-analysis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021 Sep;29(9):2918-33.
Key words: Medial patellofemoral ligament
Quadriceps tendon
MPFL reconstruction

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society