目的 |
前十字靱帯(Anterior cruciate ligament;以下,ACL)損傷は膝靱帯損傷の中で頻度の高い外傷であるが,膝蓋腱との同時損傷は稀である1.ACLと膝蓋腱の同時損傷例において,約70%に内側側副靱帯(Medial collateral ligament;以下,MCL)損傷を合併する2. ACLと膝蓋腱の同時損傷の手術を一期的に行うか二期的に行うか一定の見解は得られていない1,2.今回我々は,ACL・MCL・膝蓋腱を同時損傷し二期的に手術加療を行った2例を経験したので報告する. |
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症例1 |
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16歳男性.高校生ラグビー部. |
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主訴 右膝関節痛 |
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現病歴 ラグビー中にタックルをした際に右膝を外反強制し受傷,右膝関節の腫脹・疼痛を認め同日近医整形外科を受診した.膝複合靱帯損傷の疑いにて受傷後4日目に当科紹介受診. |
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理学所見 右膝関節に腫脹・関節血症を認め,膝蓋腱部に陥凹を認めた.膝関節可動域は0−30°と著明な可動域制限を認めた.Lachman test:陽性,外反ストレステストは膝伸展位および 30°屈曲位ともに不安定性を認めた. |
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画像所見 単純X線側面像でInsall-Salvati ratioは1.5と膝蓋骨高位を認めた(図1).MRI T2冠状断では,MCLの大腿骨側での損傷像を認め,T2矢状断ではACLの断裂像および膝蓋腱実質部でのたわみを認め,膝蓋腱断裂を示唆する所見を認めた(図2).外側半月板後節の横断裂も認めた.
以上より,右膝ACL,MCL,膝蓋腱の同時損傷,ならびに半月板損傷と診断した.まず膝蓋腱縫合術を行い,大腿四頭筋筋力および関節可動域が回復した後に二期的にACL・MCL再建術を行う方針とした. |
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手術所見と術後経過 受傷後6日目に膝蓋腱縫合術,関節鏡検査を施行した.関節鏡視では,ACLは大腿骨側で断裂を認め,内側関節包は広範囲に損傷し,外側半月板中節の縦断裂・後節の横断裂を認めた.ロッキング徴候は認めなかったため縫合は施行しなかった.膝蓋腱は腱実質部で全幅のうち内側5分の4が断裂しており,Bunnell法を用いて端端縫合したうえで,Leeds-Keio人工靱帯で補強を行った.術後2週から膝硬性装具下に関節可動域訓練および部分荷重を開始.術後4週で全荷重を許可した.術後2ヶ月で膝関節可動域は0−140°まで改善し, MRIにて膝蓋腱の描出が良好で,縫合部に問題がないことを確認した.右膝関節ACL不全・MCL不全は残存し,初回術後2ヶ月でACL・MCL再建術を施行した.
関節鏡視にて内側関節包損傷部・外側半月板後節横断裂部は自然修復しており,処置を行わなかった.外側半月板中節に縦断裂残存を認め,1針のみAll-inside法で縫合を施行.対側骨付き膝蓋腱を用いてACL再建を行い,MCL再建は同側半腱様筋腱・薄筋腱を用いて行った.
術後1週から関節可動域訓練,部分荷重を開始.術後3週で全荷重を許可した.術後経過は良好で,術後3ヶ月からジョッギング開始,術後6ヶ月よりダッシュを開始し,術後10ヶ月でラグビー復帰を果たした.
術後1年で右膝関節可動域は0−150°,Lachman testとpivot-shift testは陰性でACLの安定性は良好であり,外反ストレステストも陰性でMCLの安定性も良好であった.単純X線側面像にてInsall-Salvati ratioは1.1と改善した.またIKDC subjective scoreは100点中90.8点,膝伸展筋力は健側比103%と術後経過良好であった. |
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症例2 |
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22歳女性.大学生スキー部. |
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主訴 左膝関節痛 |
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現病歴 アルペンスキー中に転倒し左膝を受傷.同日近医整形外科を受診.受傷後2日目に当科紹介受診となった. |
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理学所見 左膝関節に腫脹・関節血症を認め,膝蓋腱部に陥凹を認めた.膝関節自動屈曲は30°と著明な可動域制限を認めた.Lachman test:陽性,外反ストレステストは膝関節30°屈曲位で不安定性を認めた. |
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画像所見 単純X線側面像で Insall-Salvati ratioは2.3と膝蓋骨高位を認めた(図3).MRI T2脂肪抑制冠状断では,MCL大腿骨側での損傷を認め,矢状断ではACL損傷及び膝蓋腱の断裂像を認めた(図4).
以上より,左膝ACL,MCL,膝蓋腱の同時損傷と診断した.まず膝蓋腱の縫合を行い,二期的にACL再建術を行う方針とした.ACL再建術時に外反不安定性が残存していれば同時にMCL再建術も行う方針とした. |
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手術所見と術後経過 受傷後2日目に初回手術を施行した.関節鏡視では,ACL損傷を認め,内側半月板前中節の縦断裂を認めたが,ロッキング徴候は認めなかったため縫合は施行しなかった.膝蓋腱は脛骨粗面付着部より約2cm近位で大部分が断裂,一部膝蓋骨付着部近傍で断裂している線維も認めた.Double-Tsuge法で端端縫合したうえで,膝蓋骨近傍での断裂に対しては,膝蓋腱のpull out固定も追加した.
術後2週から硬性装具下に関節可動域訓練および部分荷重を開始し,術後4週で全荷重を許可した.術後2ヶ月で膝関節屈曲120°まで改善した.膝関節前方不安定性は残存したが,外反不安定性は改善しており,初回術後2ヶ月で同側半腱様筋腱・薄筋腱を用いたACL再建術を施行した.内側半月板中節に縦断裂の残存を認めAll-inside法にて4針縫合を施行した.
術後1週から硬性装具下に関節可動域訓練および部分荷重を開始.術後2週で脛骨ポストスクリュー部の感染を認めたため洗浄・病巣掻爬術を行い,患部安静・抗菌薬投与にて軽快した.しかし,感染後の患部安静期間もあったためACL再建術後2ヶ月時点で膝関節屈曲80°と可動域制限があり,関節鏡視下関節授動術を施行した.その後リハビリテーションにて関節可動域も回復しACL再建術後1年でスキーへ復帰した.
初回術後2年で左膝関節可動域は0−140°.Lachman testとpivot-shift testは陰性でACLの安定性は良好であった.単純X線側面像にてInsall-Salvati ratioは1.1と改善した.またIKDC subjective scoreは100点中100点, 膝伸展筋力は健側比80%であった. |
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考察 |
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本症例報告では,ACL,MCL,膝蓋腱の同時損傷に対してまず膝蓋腱縫合を行ったのち二期的にACL(+MCL)再建術を行ったが,2例ともスポーツ復帰し良好な治療成績を得ることができた.ACLと膝蓋腱の同時損傷は稀であるが,同時損傷の多くはスポーツ外傷により生じMCLや半月板の合併損傷も多く報告されている1,2.治療方法に関しては,ACL再建と膝蓋腱縫合を同時に行う一期的手術法と,まず膝蓋腱縫合を行い,膝関節可動域が改善したのち二期的にACL再建を行う二期的手術法が報告されているが一定の見解は得られていない1〜3.一期的手術はスポーツ復帰等にかかる期間が短いという利点があるものの,侵襲が大きく術後関節拘縮を生じる可能性が高くなりうる.一方,二期的手術では1回の手術侵襲が少なくなり関節拘縮が起こりにくいが,手術・固定期間が 2回となりリハビリテーションの期間が長くなるという欠点があり,手術戦略に関して一定の見解は得られていない1,2.Meheuxらによる11論文18例を対象とした系統的レビューでは,18例中15例がスポーツによる外傷であった.合併損傷としてMCL損傷は67%,内側半月板損傷は39%,外側半月板損傷は56%の症例に認めた.また手術戦略については8例で一期的手術,10例で二期的手術が選択されており,スポーツ復帰率は両群とも80%を超え術後成績は良好であった.しかし一期的手術では4例(50%)で可動域制限や前後不安定性の残存などの合併症を認めたのに対し,二期的手術では合併症を認めず,一期的手術は二期的手術に比べ合併症率が有意に高かったと報告されている1.また二期的手術における初回手術から二回目までの待機期間は、過去の報告では5週〜7ヶ月とばらつきがある1. 本研究では初回術後約2ヶ月で二回目の手術を施行したが,症例2では2回目の手術直前で膝屈曲120度と軽度の可動域制限が残存していた.術後創部感染を生じたため、拘縮の要因は明らかではないものの,術前の屈曲制限が術後拘縮の一因となった可能性は否定できない.術後拘縮を可能な限り予防するためには,今後同様の症例の場合は,2回目の術前に十分に関節可動域が改善してから手術を行うことが望ましいと考えられた.
また術後2年での短期治療成績として,IKDC subjective scoreは56.3〜95.3点,術後膝伸展筋力は健患比76〜120%と報告されている4,5.本研究の2症例では二期的手術を選択し,過去の報告と同等の手術成績を得ることができた.症例2では術後創部感染とその後の膝関節拘縮という術後合併症を認めたものの,いずれも手術により軽快し最終経過観察時には関節可動域制限なく膝安定性も良好で,スポーツ復帰を果たすこともできた. |
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結語 |
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ACL・MCL・膝蓋腱の同時損傷の2例に対し,二期的に手術加療を行い良好な術後成績を得た. |
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参考文献 |
1. |
Meheux CJ, Jack RA, McCulloch PC, et al. Surgical management of simultaneous anterior cruciate ligament and patellar tendon ruptures: A systematic review. J Knee Surg 2018;31:875-883. |
2. |
Cucchi D, Aliprandi A, Nocerino E, et al. Early combined arthroscopic treatment for simultaneous ruptures of the patellar tendon and the anterior cruciate ligament leads to good radiological results and patient satisfaction. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2017;26:1164-1173. |
3. |
Levakos Y, Sherman MF, Shelbourne KD, et al. Simultaneous rupture of the anterior cruciate ligament and the patellar tendon. Six case reports. Am J Sports Med 2016;24:498-503. |
4. |
Mariani PP, Cerullo G, Iannella G, et al. Simultaneous rupture of the patellar tendon and the anterior cruciate ligament: report of three cases. J Knee Surg 2013;26(Suppl 1):S53-S57. |
5. |
Futch LA, Garth WP, Folsom GJ, Ogard WK, et al. Acute rupture of the anterior cruciate ligament and patellar tendon in a collegiate athlete. Arthroscopy 2007;23:112.e1-e4 |
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Key words: |
anterior cruciate ligament
patellar tendon
medial collateral ligament |
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