関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
会長挨拶 本研究会について 役員名簿 入会案内
Top Page
研究会誌投稿規定 研究会のお知らせ 関連学会・研究会のご案内
関西関節鏡・膝研究会誌 2021 Vol.33 No.1
骨端線閉鎖前の習慣性膝蓋骨脱臼に対してproximal realignment法と内側膝蓋大腿靱帯再建術の併用により良好な成績を得た一例
 要旨

習慣性膝蓋骨脱臼は比較的稀な疾患であり、治療に難渋することが多い。症例は11歳女性、膝屈曲60°以上で膝蓋骨の外方脱臼を認める習慣性膝蓋骨脱臼の診断となった。外側支帯解離、大腿四頭筋腱部分切離、内側広筋前進術ならびに内側膝蓋大腿靱帯(medial patellofemoral ligament;MPFL)再建術を施行し、術後1.5年での良好な成績を得た。骨端線閉鎖前の習慣性膝蓋骨脱臼に対して、proximal realignment法とMPFL再建術の併用は有効な治療法の一つとなり得ることが示唆された。

 緒言
  習慣性膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が膝関節可動域運動で自然に脱臼・整復する病態で、多くが屈曲の過程で脱臼する。その病因は多因子であり、解剖学的異常を伴うことが多く、治療に難渋することが多い4)
筆者らは骨端線閉鎖前の患者における習慣性膝蓋骨脱臼に対し、proximal realignment法とMPFL再建術を併用し、良好な成績を得たため報告する。
 症例
年齢、性別
11歳、女性。
主訴
右膝関節痛
現病歴
特に誘引なく右膝痛が出現し、前医を受診した。右膝蓋骨脱臼の診断のもと、ニーブレイス固定の上経過観察となった。その後も脱臼を繰り返すため、初回脱臼後4ヶ月後に当院紹介受診となった。
理学所見
右膝関節は腫脹や膝蓋跳動を認めず、関節可動域は伸展0˚、屈曲140˚で明らかな制限を認めなかった。Apprehension test陰性、patellar compression test陰性、屈曲30度付近で膝蓋骨は外方偏位し、屈曲60˚では完全に脱臼した。
画像所見
右膝単純X線像(図1)では、骨端線は閉鎖前であった。明らかな膝蓋骨高位を認めなかったが、Patellar width ratioは0.8(カットオフ値0.59)と増大を認め1)、膝蓋骨の不安定性が示唆された。Patellar tilt angleは39˚と著明に増大し、sulcus angleは167˚と大腿骨膝蓋骨滑車の軽度低形成を認め、congruence angleは49˚と増大を認めていた。これらの計測値は健側でほぼ正常範囲内であった。右膝屈曲30˚で膝蓋骨は亜脱臼位を示し、60˚では完全に脱臼した。単純CT像(図2)では、tibial tuberosity-trochlear groove (TT-TG) distanceは21.7 mmであり、軽度の外方偏位を認めた(表1)。
以上より、右膝の骨端線閉鎖前の大腿骨膝蓋骨滑車低形成を伴う習慣性膝蓋骨脱臼と診断し、手術による治療を計画した。
手術所見
術前全身麻酔下では右膝屈曲30˚付近で膝蓋骨は完全に脱臼した。
最初に、関節鏡視を行ったが、十字靱帯、半月板、関節軟骨に明らかな異常所見を認めなかった。Proximal realignment法として、脛骨結節外側から大腿中央に至る広範囲の外側支帯解離を施行し、膝蓋骨のtracking courseを確認したが、脱臼傾向が強く、膝屈曲80˚で膝蓋骨は脱臼した。そのため、大腿四頭筋腱延長術を追加すべく、大腿四頭筋腱を外側からL字に切離したところ、伸展機構の緊張が解除され、trackingは著明に改善し、四頭筋腱延長術まで施行することなく、脱臼せずに深屈曲が可能となった(図3)。
続いて、MPFL再建を施行した。グラフトは半腱様筋腱を二重折りとし、折りたたんだ方が大腿骨側で、自由縁側が膝蓋骨側とした。固定には、膝蓋骨近位と中央にスーチャーアンカー(DePuy Mitek社Super QUICKANCHOR® Plus) を2本挿入し、骨端線の損傷を考慮し、大腿骨側もスーチャーアンカー(DePuy Mitek社Super QUICKANCHOR® Plus、Smith & Nephew社1.8 mm Q-FIX® Suture Anchor)計2本を使用いた。大腿骨側の固定位置は、骨端線より遠位で、長さ変化が屈曲で長くならず、かつ屈曲0~90˚付近は等尺もしくは軽度長くなるようなパターンで選択した2)。最後に内側広筋前進術を追加し、脱臼することなく深屈曲可能なことを確認して終了とした。
術後経過
関節可動域訓練は術後3日から開始した。同時にニーブレイス固定下での部分荷重を開始した。術後2週間で独歩可能となり、術後5か月で学校の体育に復帰し、術後10か月でスポーツ復帰した。最終術後1.5年で疼痛・再脱臼なく経過している。
術後右膝単純X線像(図4)では、Caton-Deschamps indexは0.8、Koshino-Sugimoto methodは1.1であり、四頭筋腱部分切離を施行したが膝蓋骨は正常範囲内で変化を認めなかった。Patellar width ratioは0.4と正常範囲内へ改善を認めた。膝蓋骨軸射像では、patellar tilt angle 9˚、congruence angle -3˚と著明な改善を認め、屈曲90˚でも膝蓋骨の脱臼を認めなかった。
図1 当院初診時単純X線像
Femoro-tibial angle、膝蓋骨高は正常範囲内。膝屈曲30˚で膝蓋骨は亜脱臼位を示し、60˚では完全に脱臼した。大腿骨膝蓋骨滑車の低形成を認め、congruence angleも開大している。
a:正面像
b:側面像
c:軸射像
図2 当院初診時単純CT
大腿骨頚部前捻角は正常範囲内。TT-TG distanceは21.7 mmと脛骨粗面の軽度外方偏位を認めた。
a:大腿骨頚部前捻角
b:TT-TG distance
表1 当院初診時画像所見(右膝)
図3 四頭筋腱部分切離術
四頭筋腱延長術を施行しようと外側からL字切開を加えたところ、伸展機構の緊張が解除された。
a:シェーマ
b:術中写真
図4 術後単純X線像
膝蓋骨高は正常範囲内で変化を認めなかった。Congruence angleは改善を認め、屈曲90˚でも膝蓋骨の脱臼を認めなかった。
a:側面像
b:軸射像
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 考察
  小児習慣性膝蓋骨脱臼に対する治療において、MPFL再建術単独での良好な成績も報告されているが、多くの報告ではMPFL再建術に加えて、proximal realignment法とdistal realignment法の併用がされている3)。骨端線損傷の観点から、MPFL再建にはGaleazzi法などの半腱様筋腱を用いたtenodesisや、半腱様筋腱を内側側副靱帯に通すpulley、薄筋腱を大内転筋腱に通すpulleyが用いられている。これらの方法では、骨端線損傷を回避できる一方で、生理的なMPFLの長さ変化を再建できているかは不明である。そのため、本症例においては、長さ変化の確認をした上で、固定には骨端線損傷を考慮して膝蓋骨側・大腿骨側どちらもスーチャーアンカーを用いた。
Distal realignment法においては、骨切りを行わずに、膝蓋腱を部分移行するRoux-Goldthwait法が広く用いられている。手術は、まず初めにdistal realignment法から開始する方法も報告されているが、Roux-Goldthwait法では伸展機構の長さ調節に限界があることや、変形性関節症を進行させる恐れがあることからも5)、本症例においてはproximal realignment法から開始し、大腿四頭筋腱部分切離を追加することで、四頭筋腱延長術まで施行することなく、またdistal realignment法を追加せずに良好な膝蓋骨trackingを得た。術後の膝蓋骨低位も認めておらず、術後1.5年での臨床成績は良好であった。今後も長期成績評価のため、経過観察を要する。
 結語
  骨端線閉鎖前の大腿骨膝蓋骨滑車低形成を伴う習慣性膝蓋骨脱臼に対し、大腿四頭筋腱部分切離術を含めたproximal realignment法とMPFL再建術を併用し、再脱臼を予防し、良好な臨床成績を得た。本術式は、習慣性膝蓋骨脱臼に対する治療法の一つとなりうることが示唆された。
 参考文献
1) Kuroda R, Nagai K, Matsushita T, et al. A new quantitative radiographic measurement of patella for patellar instability using the lateral plain radiograph: ‘patellar width ratio.’ Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2017;25(1):123-128. doi:10.1007/s00167-016-4179-x
2) Matsushita T, Araki D, Hoshino Y, et al. Analysis of Graft Length Change Patterns in Medial Patellofemoral Ligament Reconstruction via a Fluoroscopic Guidance Method. Am J Sports Med. 2018;46(5):1150-1157. doi:10.1177/0363546517752667
3) Mittal R, Balawat AS, Manhas V, Roy A, Singh NK. Habitual patellar dislocation in children: Results of surgical treatment by modified four in one technique. J Clin Orthop Trauma. 2017;8:S82-S86. doi:10.1016/j.jcot.2017.03.008
4) Nelitz M, Theile M, Dornacher D, Wölfle J, Reichel H, Lippacher S. Analysis of failed surgery for patellar instability in children with open growth plates. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2012;20(5):822-828. doi:10.1007/s00167-011-1599-5
5) Sillanpää PJ, Mäenpää HM, Mattila VM, Visuri T, Pihlajamäki H. A mini-invasive adductor magnus tendon transfer technique for medial patellofemoral ligament reconstruction: A technical note. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2009;17(5):508-512. doi:10.1007/s00167-008-0713-9
Key words: habitual patellar dislocation
proximal realignment
medial patellofemoral ligament reconstruction

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society