関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2021 Vol.33 No.1
外側閉鎖式高位脛骨骨切り術後に増悪した膝蓋大腿関節症の一例
 はじめに

 近年, 内側型の変形性膝関節症(以下OA)に対して高位脛骨骨切り術(以下HTO)による良好な成績が報告されている. 一般的に広く採用されているHTOの術式には外側楔状閉鎖式(以下CW)HTOと内側楔状開大式(以下OW)HTOがあるが, OWHTOでは術後に脛骨結節が遠位に移動するために膝蓋骨低位が起こる事が知られている. 過去の屍体膝を用いた実験によると, 膝蓋大腿(以下PF)関節圧は正常膝と比較してOWHTO後の有意な上昇が示されており, PF-OAを合併した内側型膝OAにはOWHTOを避けるべきで, PF-OAの悪化防止目的にCWHTOが有効とされている1).
 今回我々はCWHTO後にPF-OAの増悪を認めた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

 症例
 51歳女性. 身長168cm, 体重80kg. 約5年来の両膝痛を有していたが, 当院受診2ヶ月前より右膝痛が増悪し, 当院に紹介受診となった. 初診時, 大腿骨内顆に強い圧痛を認めた. 関節可動域は屈曲100度伸展0度と屈曲制限を認めた. 単純X線像ではRosenberg viewにて内側関節裂隙狭小化を認め, 下肢長尺像では%Mechanical axis(以下%MA)35.8%, Hip-Knee-Ankle angle(以下HKA)-2度であった(図1). またPF関節の外側関節裂隙狭小化を認めた. PF-OAを合併した内側型変形性膝OAの診断の元, Takeuchiが報告したCWHTOの亜型であるHybrid HTOを施行した2). 後療法は術後1ヶ月で全荷重歩行を許可した.
 手術により術前の歩行時痛は改善し, 屈曲可動域も130度まで回復したが, 術後4ヶ月後より膝屈伸時に轢音を伴う痛みが出現した. 手術後10ヶ月での単純X線像は%MA69%, HKA7度であり, PF関節の外側関節裂隙はほぼ消失していた(図2). X線像における各パラメータの変化を表1に示す. CTでは膝蓋骨外側facetおよびそのmirror lesionの大腿骨外顆にcystの形成を認めた(図3). PF-OAの増悪と診断し, 脛骨粗面前内方移行術であるFulkerson法に加えて外側支帯切離術(以下LR)を施行した. 術後CTではPF関節の関節裂隙の開大を認めた(図3). Fulkerson法術後6ヶ月時点で, 安静時の痛みが消失, 階段昇降時の痛みも大きく改善し, Kujala scoreは55点から72点へKOOSは35点から61点となっている.
図1 術前単純X線写真
図2 HTO術後10ヶ月単純X線写真
図3 CT
a: HTO術直後 b: HTO術後10ヶ月(Fulkerson法施行前) c: Fulkerson法施行後
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 考察
   SongらはOWHTOおよびCWHTO術後に2nd lookを施行し, OWHTOで44%, CWHTOでも約30%にPF関節の軟骨悪化が発生しており, PF関節への悪影響が少ないと考えられていたCWHTOにおいても術後のPF関節軟骨悪化は稀でないと報告した3). リスクファクターは矯正角の大きさのみで, そのカットオフ値は9.6度としたが, 膝蓋骨の高位変化は該当しなかったと報告した. 今症例では術前後で膝蓋骨の高位には変化がなく, 今症例でのPF-OAの増悪は膝蓋骨低位が原因ではないことは明らかである.
 今症例の病態を考察すると, 術前から菲薄化していた外側PF関節軟骨に対して, HTOにより生じた膝蓋骨のアライメント変化による影響, 具体的には外側へのshiftが加わった事で, PF-OAは増悪し膝前部症状が顕在化したと考える. 今症例では術後のHKAは7度であり僅かではあるが意図しない過矯正が生じてしまった. 過矯正はQ 角の増加につながると報告されているが, 過去の生体力学的試験でQ 角の増加が膝蓋骨の外側へのshiftを引き起こす事が示されており, その結果外側PF関節のcontact forceを上昇させたと考えられる4).
 内側型膝OAに対してはCWHTOでの良好な治療成績が報告されているが, CWHTOにLRを追加する事でCWHTO単独よりも術後の膝蓋骨のtilt angleが小さい上, 臨床成績(Knee Society Score)も良好であったと報告されている5). CWHTO施行症例全例にLRを追加するべきかどうかは議論の余地があるが, 今症例のようにPF-OAを合併している内側型膝OAに対してはCWHTOにLR追加をすることで, 外側支帯の緊張が緩和されPF-OA増悪の防止の一助につながる可能性はあると考える. 尚, PF-OAの悪化により顕著になった膝前部症状に対しての今症例の追加手術では, PF関節の外側関節裂隙はほぼ消失しておりLRのみでは除痛効果は不確実と考え, PF関節のcontact forceをより確実に減少させる為に Fulkerson法を追加した.
表1 HTO術前後におけるX線像の各パラメータの変化
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 結語
   CWHTOを施行した結果, 膝蓋骨高位には変化がなかったもののPF-OAが増悪し, 膝前部の症状が顕著になった症例を経験した.
 参考文献
1) Stoffel K, Willers C, Korshid O, et al. Patellofemo- ral contact pressure following high tibial osteotomy: a cadaveric study. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2007;15:1094-1100.
2) Takeuchi R, Ishikawa H, Miyasaka Y, et al. A novel closed-wedge high tibial osteotomy procedure to treat osteoarthritis of the knee: hybrid technique and rehabilitation measures. Arthrosc Tech 2014;3:e431-7.
3) Song SJ, Yoon KH, Park CH. Patellofemoral cartilage degeneration after closed- and open-wedge high tibial osteotomy with large alignment correction. Am J Sports Med 2020;48:2718-25.
4) Mizuno Y, Kumagai M, Mattessich SM, et al. Q-angle influences tibiofemoral and patellofemoral kinematics. J Orthop Res 2001;19:834-40.
5) Christodoulou NA, Tsaknis RN, Sdrenias CV, et al. Improvement of proximal tibial osteotomy results by lateral retinacular release. Clin Orthop Relat Res 2005; 441:340-5.
Key words: Patellofemoral osteoarthritis
Closed-wedge high tibial osteotomy
tibial tubercle osteotomy

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society