関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2019 Vol.31 No.1
PCL温存型TKA術後滑膜インピンジメントにて後外側痛を生じた1例
 目的

我々はPCL温存型TKA術後滑膜インピンジメントにて後外側痛を生じた1例を経験したので報告する。

 症 例
70代女性、主訴は右膝後外側痛である。現病歴は当科で右変形性膝関節症に対してTKA施行後(conventional approach、measured resection、PCL温存、膝蓋骨非置換、Stryker Triathlon CS)、疼痛は軽減、可動域、下肢アライメント、歩容は改善し、術後経過は良好であったが(図1)、術後3か月頃から、座位から立位時の膝窩部外側の疼痛、引っかかり感が生じ、徐々に増悪した。保存加療を行うも症状改善せず、TKA術後後外側痛として滑膜インピンジメントなどを疑い、術後8か月で関節鏡を施行した。
理学所見では、伸展−10度から屈曲95度の可動域制限、軽度屈曲位から伸展時に膝前方に摩擦音を聴取し、後外側部にクリックを認めた。関節鏡所見では内側コンパートメント、膝蓋骨周囲に異常所見は認めなかったが、顆間窩に滑膜性瘢痕を認め、屈曲位から伸展位で、大腿骨コンポーネント(FC)とインサート間にインピンジメントされる様子が観察できた(図2)。
滑膜性瘢痕はPCLと癒着し、さらにPCLは残存外側半月板(LM)と後角部で癒着、膝窩筋腱(PT)は残存LMと瘢痕で一塊となっており、鏡視下にPT周囲の瘢痕を切除し、残存LMとPCLとの癒着部を切除、分離した (図3)。
関節を切開すると、顆間窩滑膜性瘢痕とPCLは強固に癒着しており、直視下でも屈曲位から伸展位でFCとインサート間にインピンジメントされる様子が観察でき、滑膜性瘢痕をPCLから切除し、インピンジメントは改善された(図4)。
切除組織の病理組織学的検査では粘液性変化を伴う滑膜組織であった。術直後より後外側痛は消失し、術後7か月の現在、疼痛の再発無く経過良好である。
図1 TKA施行後、疼痛は軽減、可動域、下肢アライメント、歩容は改善し術後経過は良好であった
図2 顆間窩に滑膜性瘢痕を認め屈曲位から伸展位でFCとインサート間にインピンジメントされる様子が観察できた
図3 滑膜性瘢痕はPCLと癒着し、PCLは残存LMと後角部で癒着、PTは残存LMと瘢痕で一塊となって おり、鏡視下にPT周囲の瘢痕を切除し、残存LMとPCLとの癒着部を切除、分離した
図4 顆間窩滑膜性瘢痕とPCLは強固に癒着しており、直視下でも屈曲位から伸展位でFCとインサート間に インピンジメントされる様子が観察でき、滑膜性瘢痕をPCLから切除し、インピンジメントは改善された
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 考察
   自験例の病態としてTKA術後の顆間窩での滑膜インピンジメントとPTインピンジメントの関与が考えられた。 顆間窩での滑膜インピンジメントはPS型TKA術後の顆間窩の滑膜性瘢痕形成としての報告が散見され、PCL遺残組織とポストとの反復性機械刺激の他に、出血、血塊や膝伸展制限もその要因とされる1)。PTインピンジメントの報告では、Westermannらは術中インピンジメントは300例中8例、2.7%に認められたと報告している2)。症状は膝後外側に限局した疼痛、可動時痛、クリック、スナッピングが特徴で、診断にはエコーガイド下局麻注射が有用とされる。治療としては、保存加療無効例には手術加療が選択され、手術加療としてはPT切離、切除術が報告されており、Barnesらは観血的大腿骨側付着部切離、Allardyceらは関節鏡視下切離、Westermannらは鏡視下膝窩筋腱、瘢痕切除にて疼痛が改善し、良好な術後成績を得たと報告している2), 3), 4)。TKAにおけるPT切離、切除においては、その影響は不明瞭で一定の見解を得ていないが、Bonninらは、屍体膝を用いてTKA術後のPTとコンポーネントのインピンジメントを検討し、PTはTKA術後脛骨側では、伸展位で後方に、大腿骨側では屈曲位で外方に偏位したと報告しており5)、PTインピンジメントの完全回避は困難と思われる。自験例では、術後経過良好であったことから、コンポーネント設置、サイズ選択には大きな問題はなかったと思われ、術後3か月頃から後外側痛が出現しており、術後、経時的に生じたPTインピンジメントの可能性が考えられた。病態、疼痛出現の機序としては、顆間窩に形成された滑膜性瘢痕が、PCL、残存LM、PTと癒着瘢痕一塊化し、FC、インサート間のインピンジメントにて瘢痕組織の過緊張からPTの牽引痛を生じ、座位から立位時の後外側痛を生じたと推測した。PCLと残存LMの癒着部切離、顆間窩滑膜性瘢痕切除により、PTへの過牽引力は低下し後外側痛は術直後より消失した。術後短期経過は良好だが、今後も長期的な経過観察が必要と考える。
 まとめ
   PCL温存型TKA術後滑膜インピンジメントにて後外側痛を生じた1例を経験した。手術により後外側痛は消失したが、今後も長期的な経過観察が必要と考える。
 文献
1) Bonutti PM, Zywiel MG, Mont MA, et al. Femoral notch stenosis caused by soft tissue impingement in semi or open-box posterior-stabilized total knee arthroplasty. J Arthroplasty 2010; 25: 1061-1065.
2) Westermann RW, Daniel JW, Amendola A, et al. Arthroscopic management of popliteal tendon dysfunction in total knee arthroplasty. Arthroscopy Techniques 2015; 4: e565-e568.
3) Barnes CL, Scott RD. Popliteus tendon dysfunction following total knee arthroplasty. J Arthroplasty 1995; 10:543-545.
4) Allardyce TJ, Scuderi GR, Insall JN. Arthroscopic treatment of popliteus tendon dysfunction following total knee arthroplasty. J Arthroplasty 1997; 12: 353-355.
5) Bonnin MP, Kok A, Victor J, et al. Popliteus impingement after TKA may occur with well-sized prostheses. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2017; 25: 1720-1730.
Key words: synovial impingement, posterolateral knee pain, PCL retaining TKA

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society