関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2018 Vol.30 No.1
TKA術後に繰り返す膝関節血種に対して関節鏡視下滑膜切除術を施行した1例
 目的
TKA術後に繰り返す膝関節血腫に対して関節鏡視下滑膜切除術を施行した1例を経験したので報告する。
 症 例
60代女性、主訴は左膝関節腫脹と膝前面痛であった。現病歴では、前医でのTKA術後持続するPF関節摩擦音、疼痛に対し、当科で膝蓋骨置換術施行後、繰り返す膝関節腫脹、血腫、膝前面痛を認めた。既往に関節リウマチを認め、ステロイド、免疫抑制剤にて加療中であったが、抗凝固薬、抗血小板薬の内服はなかった。使用機種はMicro Port社、EVOLUTION PSで膝蓋骨は非置換であったが、PF関節摩擦音、疼痛が持続したため当科で膝蓋骨置換術を施行した。術中所見では、膝蓋骨上方関節軟骨は摩耗し、軟骨下骨が露出、膝蓋腱に肥厚した滑膜の増生を認めた。膝蓋骨周囲の滑膜切除、膝蓋骨を置換し、術後PF関節摩擦音、疼痛は消失した。しかし、術後繰り返す膝関節腫脹、血腫と膝前面痛を生じた。術後1年時の単純X線ではアライメント異常、設置不良、緩み、膝蓋骨低位は認めなかった(図1)。理学所見では、左膝に腫脹、膝蓋跳動を認め、関節穿刺では10〜20mlの痰血性関節液を認めたが、細菌培養は陰性であった。膝関節可動域は伸展0°から屈曲120°で、屈曲に伴い膝蓋腱周囲の疼痛が増悪し、膝蓋骨周囲、特に膝蓋腱実質部に最も強く圧痛を認めた。PF関節にはクリック、疼痛は認めなかった。血清学的には血小板、凝固系も正常で、血腫、疼痛の原因の精査目的に術後1年1ヶ月時に関節鏡を施行した。

関節鏡所見では、膝蓋上嚢、膝蓋骨コンポーネント周囲に滑膜増生、瘢痕形成は認めず大腿骨コンポーネントボックス部では滑膜インピンジメントは認めず、パテラクランク症候群は否定的であった(図2)。外側コンパートメントでは、大腿骨コンポーネントとインサート間に瘢痕組織のインピンジメントを認め、関節鏡視下に切除した。活動性の出血は認めなかった(図3)。一方、インサート前方陥凹部に、膝蓋腱後方に連続する血塊を伴う瘢痕組織の嵌頓を認め、鏡視下に有茎の瘢痕組織が膝屈曲角度増加に伴い牽引される様子が観察でき、シェーバーを用いて瘢痕組織を切除し、アブレーターにて膝蓋腱後方切除部位の止血操作を加えた(図4)。病理検査では非特異的線維化伴う滑膜組織であった。関節鏡視下滑膜切除術術後、膝関節腫脹、膝前面痛は改善し、現在、術後10ヶ月で短期だが再発はなく経過良好である。
図1 術後1年時単純X線ではアライメント異常、コンポーネント設置不良、緩み、膝蓋骨低位は認めなかった
図2 膝蓋上嚢、膝蓋骨コンポーネント周囲に滑膜増生、瘢痕形成は認めず、大腿骨コンポーネントボックス部での滑膜インピンジメントも認めなかった
図3 外側コンパートメントでは、大腿骨コンポーネントとインサート間に瘢痕組織のインピンジメントを認め関節鏡視下に切除した
図4 インサート前方陥凹部に、膝蓋腱後方に連続する血塊を伴う瘢痕組織の嵌頓を認め、鏡視下に有茎の瘢痕組織が膝屈曲角度増加に伴い牽引される様子が観察でき、シェーバーを用いて瘢痕組織を切除し、アブレーターにて膝蓋腱後方切除部位の止血操作を加えた
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 考察
   TKA術後膝関節血腫は、諸家の報告では発生頻度は0.3〜1.6%とまれで、その原因は、凝固能異常、抗凝固薬内服、血管脆弱性、滑膜組織インピンジメント、動静脈瘻、仮性動脈瘤、インプラントアライメント不良、緩み、膝関節不安定性、RA、PVSなど様々である。病態としては滑膜の増生、易出血性、インピンジメントが関与し、治療法としては保存療法では穿刺、安静、外固定などで約30%が改善するとされているが、抵抗性の場合には、選択的膝動脈塞栓術、直視下滑膜切除術、関節鏡視下滑膜切除術、止血術などの手術療法が選択される。谷口らは40代RA患者のTKA術後関節血症に対して塞栓術を施行するも、術後1年4ヶ月で再燃を認め、関節鏡視下滑膜切除術に至ったと報告しており1)、また、直視下滑膜切除術では、Kindsfaterらは57%で出血源が不明確であったと述べている2)。一方で、関節鏡視下滑膜切除術、止血術では近年、良好な術後成績が報告されており、岡田らは70代女性、RAの既往歴、抗凝固因子阻害薬内服の症例において、膝蓋腱滑膜より静脈性出血を認め、膝深屈曲時に脛骨コンポーネント前方とのインピンジを認め、関節鏡視下滑膜切除、止血術で良好な経過を得たと報告している3)

 自験例において使用された機種であるMicro Port社EVOLUTION PSでは脛骨コンポーネント、インサート打ち込み用のスロットがデザインされており、膝蓋腱後方滑膜とインサート前方陥凹部とのインピンジを生じ、膝屈伸に伴う反復刺激により滑膜増生、易出血性が惹起され、繰り返す膝関節血腫の一因となったと考えられ、関節鏡視下滑膜切除術を施行し、良好な術後経過を認めた。今後、慎重な経過観察が必要と思われるが、関節鏡視下滑膜切除術はTKA術後滑膜インピンジメントに対する病態把握と治療に有用と思われる。
 まとめ
   TKA術後に繰り返す膝関節血腫に対して関節鏡視下滑膜切除術を施行した1例を経験した。関節鏡視下滑膜切除術はTKA術後滑膜インピンジメントに対する病態把握と治療に有用と思われる。
 文献
1) 谷口浩人, 加藤義治. 塞栓術施行後に再燃した人工膝関節置換術後関節血症の1例.
日本人工関節学会誌 2015; 45: 523-524.
2) Kindsfater K, Scott R. Recurrent hemarthrosis after total knee arthroplasty.
J Arthroplasty 1995; 10: S 52.
3) 岡田博, 森論史, 滝正徳, 田中健太郎. 人工膝関節置換術後に関節内血種を来し, 関節鏡にて止血術施行した3症例. 日本人工関節学会誌 2016; 46:379-380.
Key words: arthroscopic synovectomy, recurrent hemarthrosis, total knee arthroplasty

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society