目的 |
症候性膝蓋下滑膜ひだに対して鏡視下切除術を施行した2例を経験したので報告する。 |
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症 例 1 |
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43歳女性、主訴は右膝前面痛。現病歴は約2年前に右膝打撲後、膝前面痛が出現、症状持続し、保存加療を行うも症状改善なく当科を受診した。単純X線上、異常所見は認めず、MRI上も膝蓋下滑膜ひだは同定できたが、明らかな異常所見は認めなかった(図1)。理学所見では、膝腫脹は軽度で膝蓋跳動は認めず、可動域は伸展0°から屈曲130°で、伸展強制時痛と深屈曲時痛、膝蓋骨下方に圧痛、膝屈伸時に膝蓋大腿関節にクリック、疼痛を認め、Patellar compression、gliding testは陽性であった。PF関節病変や滑膜ひだ障害などを疑い、診断、治療目的に関節鏡を施行した。関節鏡所見では前十字靭帯、内外側コンパートメント、膝蓋内側滑膜ひだに明らかな異常所見は認めなかった。膝蓋骨軟骨面には毛羽立ち、不整像を、膝蓋下滑膜ひだには線維化と緊張を認め、これを鏡視下に切除した(図2)。術後5か月、膝屈伸時のクリック、疼痛は消失、症状は改善している。 |
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図1 |
MRI上、膝蓋下滑膜ひだは同定できたが、明らかな異常所見は認めなかった |
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図2 |
関節鏡所見では膝蓋下滑膜ひだに線維化と緊張を認め、鏡視下に切除した |
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症 例 2 |
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35歳男性、主訴は右膝前面痛とひっかかり感。現病歴は転倒し右膝打撲後、膝前面痛とひっかかり感が出現し、保存加療を行うも症状改善に乏しく、単純X線上、異常所見は認めず、MRI上も膝蓋下滑膜ひだは同定できたが、明らかな異常所見は認めなかった(図3)。理学所見では、膝腫脹、膝蓋跳動は認めず、可動域は伸展0°から屈曲140°で伸展強制時痛、深屈曲時痛、 膝蓋骨周囲に圧痛、膝屈伸時に膝蓋大腿関節にクリック、疼痛を認め、Patellar compression、gliding test、Friction rotation testは陽性で、診断、治療目的に関節鏡を施行した。関節鏡所見では前十字靭帯、内外側コンパートメント、膝蓋大腿関節、膝蓋内側滑膜ひだに明らかな異常所見は認めなかった。膝蓋下滑膜ひだには線維化と緊張、脂肪体の一部に炎症性変化を認め、鏡視下にこれらを切除した(図4)。術後4か月、ひっかかり感は消失、前面痛改善も深屈曲時痛の残存を認めている。 |
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図3 |
MRI上、膝蓋下滑膜ひだは同定できたが、明らかな異常所見は認めなかった |
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図4 |
関節鏡所見では膝蓋下滑膜ひだには線維化と緊張、脂肪体の一部に炎症性変化を認め、鏡視下に切除した |
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考察 |
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滑膜ひだは、胎生期発達上の滑膜性隔壁の遺残としての正常構造で、その発生起源より膝蓋上、下、内側、外側の4種類に分類され、発生頻度は膝蓋下滑膜ひだが65から85.5%と多いと報告されている。膝蓋下滑膜ひだはligamentum mucosumとして知られ、大腿骨顆間窩前方から起こり前方へ下行、前十字靭帯の上方を平行に走行、膝蓋下脂肪体や膝蓋骨下極に付着する。症候性滑膜ひだ、いわゆるplica syndromeの要因とはなりにくいとされている。
Kimらは200例の関節鏡所見から膝蓋下滑膜ひだは85.5%に存在し、4つの型に分類でき、Separate typeが最多であったと報告し1)、また、外傷歴のある13歳男児と24歳男性の膝屈曲拘縮の2例を報告し、関節鏡視下に肥厚、線維化、弾性低下した膝蓋下滑膜ひだが膝伸展時に顆間窩でインピンジするのを確認し、鏡視下切除術を施行し、伸展制限は改善したと最初に報告した2)。Boydらは膝前面痛を有する膝蓋下滑膜ひだに鏡視下切除術を施行した12例の良好な術後成績を報告し、症状は膝蓋骨周囲痛、屈伸時痛、ひっかかり感、クリック、脱臼感など多様であったと述べ3)、Demiragらは、症候性膝蓋下滑膜ひだに鏡視下切除術を施行した14例を検討し、Fenestra 7例、Separate 5例、Vertical septum 2例で、良好な術後成績を報告している4)。Raduらは、膝前面痛を有する53歳女性の症例の中で、肥厚した膝蓋下滑膜ひだと連続する膝蓋下脂肪体後面の炎症性変化を認めたと述べている5)。
症候性膝蓋下滑膜ひだでは、膝への外傷が膝蓋下滑膜ひだの炎症を惹起し、線維化、肥厚化、弾性低下が生じ、緊張する索状物へ変化、大腿骨顆間窩とのインピンジメント、連続する膝蓋下脂肪体後面の炎症、また膝蓋骨軟骨面の変化などを引き起こし、膝前面痛の要因となり、保存療法に抵抗する場合には鏡視下切除術が有用とされる。自験例では、外傷後に出現、持続する膝前面痛を認め、理学、画像所見より診断はつかず、保存加療に抵抗し、診断、治療目的に関節鏡を施行し、膝蓋下滑膜ひだが原因と考え鏡視下切除術を施行し、術後症状の改善を得た。持続する膝前面痛では、その要因に症候性膝蓋下滑膜ひだも念頭に置く必要があると思われる。 |
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まとめ |
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症候性膝蓋下滑膜ひだに対して鏡視下切除術を施行し症状の改善を得た2例を経験した。持続する膝前面痛では、その要因に症候性膝蓋下滑膜ひだも念頭に置く必要があると思われる。 |
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文献 |
1) |
Kim SJ, Min BH, Kim HK. Arthroscopic Anatomy of the infrapatellar plica. Arthroscopy 1996; 12: 561-4. |
2) |
Kim SJ, Choe WS. Pathological infrapatellar plica: a report of two cases and literature review. Arthroscopy 1996; 12: 236-9. |
3) |
Boyd CR, Eakin C, Matheson GO. Infrapatellar plica as a cause of anterior knee pain. Clin J Sport Med 2005; 15: 98-103. |
4) |
Demirag B, Ozturk C, Karakayali M. Symptomatic infrapatellar plica. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2006; 14: 156-160. |
5) |
Radu A, Discepola F, Le H, et al. Posterior Hoffa’s fat pad impingement secondary to a thickened infrapatellar plica: a case report and review of the literature. J radiol Case Rep 2015; 9: 20-6. |
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Key words: |
symptomatic infrapatellar plica |
Key words: |
anterior knee pain |
Key words: |
arthroscopic excision |
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