はじめに |
骨付き膝蓋腱(BTB)による前十字靭帯(ACL)再建術は1980年~90年代にはgold standardであった。しかしエンドボタンなど固定機材の開発に伴ってハムストリング(STG)による再建術が行われ、正常ACLの解剖学的研究により、現在ではSTGによる解剖学的二重束再建が行われている。
BTBによるACL再建術は長期に優れた膝安定性を保つにもかかわらず敬遠されるに至ったのは、術後の膝前部痛、知覚障害、可動域制限、筋力回復の遅延がスポーツ復帰に問題となることがあること、さらに正常ACLと解剖学的に模倣するにはSTGによる再建の方が比較的容易に可能であることからと考えられる。
当院では2013年から小侵襲にBTBグラフトを採取してACL再建を行う方法(MIS-BTB)を行い、BTBによる再建術の欠点ともいうべき術後の問題を克服し、早期のスポーツ復帰とパフォーマンス向上につなげようと試みてきた。今回の研究の目的は、MIS-BTB-ACL再建術が術後の膝前部痛、可動域障害、筋力低下に有効であるかを検討することである。
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方法 |
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2013年に著者が施行した初回ACL再建術107例のうち、オープンでの半月板縫合術、ICRS gradeⅢ以上の軟骨損傷および骨穿孔術、複合靭帯損傷に対する手術を追加した症例を除き、6か月以上当院でリハビリテーションを行い評価できた32例を対象とした。
小侵襲に採取した骨付き膝蓋腱による再建術をMIS-BTB群、半腱様筋腱と薄筋腱による再建術をSTG群とし、①膝前部痛に対してanterior knee pain(AKP) score、②伸展可動域制限に対してheel height difference(HHD) 、③伸展筋力にたいしてμTASを用いた膝伸展筋力患健差、④Lysholm score、⑤IKDC subjective scoreを評価項目として、術後6か月での両群間を比較した。
MIS-BTB法とは、脛骨結節に約2pの横切開で、脛骨結節から膝蓋骨下極にかけてパラテノンを膝蓋腱から剥離し、KOH Device(図1)のcutting guideとcutterを用いてパラテノン下に正中9~11mm幅で膝蓋腱を切開し、脛骨側骨片をボーンソウで遊離させ、これに20G 軟ワイヤーを通して遠位に牽引しながら、外套sheathを挿入した後coring drillで膝蓋骨側骨片を採取する方法で、膝蓋腱遠位部と脛骨採骨部は修復する(図2)。
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図1 |
KOH device
(Holder-Cutter. Harvester. Coring drill. Sheath. Cutting guide) |
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結果 |
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MIS-BTB群18例、平均年齢24.9歳、男性6例女性12例、Tegner score 7.7、STG群14例、平均年齢30.4歳、男性0例女性14例、Tegner score 8.1であった。①AKP scoreはMIS-BTB群91.7±5.4、STG群95.0±4.5で両群間に有意差を認めなかった。②HHD(cm)はMIS-BTB群0.92±0.9、STG群0.61±0.7で両群間に有意差を認めるものの、両群ともに著しい伸展制限は認めなかった。③伸展筋力(%)はMIS-BTB群で75.9±23.2、STG群87.9±14.7で両群間に有意差を認めなかったものの、MIS-BTB群では80%以下の低い傾向であった。④Lysholm scoreはMIS-BTB群92.4±6.9、STG群93.0±6.7で両群間に有意差を認めなかった。⑤IKDC subjective scoreはMIS-BTB群84.3±10.1、STG群88.8±9.1で両群間に有意差を認めなかった(表1)。
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表1 |
術後6か月でのMIS-BTB群とSTG群の比較 |
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考察 |
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BTBによる再建は、術後中長期においても膝安定性は保たれていると言われる一方で、STGによる再建に比較して、膝前部の愁訴、膝立時痛が多いと言われている1)2)。BTBによるACL再建術の安定した成績にもかかわらず、本邦ではSTGによる再建術が主流となっているのは、こうした術後の問題を懸念することがひとつの要因となっていると考えられる。
BTBによるACL再建術後の膝前部の疼痛、知覚障害などの愁訴に対して、一般的な膝蓋骨から脛骨結節にかけての縦皮切でのグラフト採取は、伏在神経膝蓋下枝の損傷による疼痛や知覚障害、ドナーサイト治癒過程における炎症反応が関係するといわれている3)。これらを改善するために対し2皮切や横皮切でグラフトを採取するさまざまな方法が報告されてきた。Kartus J. らは2皮切でのグラフト採取は、膝周囲の感覚障害、膝立時痛が有意に減少したと報告している4)。 Kohn D.らはグラフト採取部の腱再生は、パラテノンの修復を行わない群では不良と報告している5)。
MIS-BTB法は、脛骨結節の約2pの横1皮切からパラテンノンを膝蓋腱から剥離し、パラテノン下からBTBグラフトを採取する方法で、横1皮切からパラテノンを温存して採取する方法は過去に報告がない。今回の研究において伏在神経膝蓋下枝の損傷による知覚障害やしびれの合併はなかった。膝前部痛においてもSTG再建と同程度に抑えることができた。これはMIS-BTB法が、BTB再建術による術後の膝前部痛、知覚障害を危惧することなく、STG再建と同等に手術適応ができることと考えられる。
後療法において、術直後より膝可動域の完全伸展の獲得を行い、荷重には制限を設けずに筋力の回復を促している。MIS-BTB法による術後6か月での可動域では著しい伸展制限を認めなかった。しかし伸展筋力の回復は、STG再建と有意差を認めないものの低い傾向にあった。後療法はMIS-BTB再建とSTG再建ともに同様のプロトコールに基づいて行ったが、MIS-BTB法による膝前部痛のコントロール下および早期の骨孔内移植骨片の癒合を考慮した時、より早期からの筋力負荷トレーニングを施行することで伸展筋力の早期回復は改善するものと考えられ、今後の改善すべき課題である。
エンドボタンやスクリューポストなどのサスペンション機能を用いた固定によるSTG再建は、骨孔移植靭帯間の錨着に時間を要したり、骨孔拡大による移植靭帯の機能低下が考えられる。MIS-BTB再建術は、BTB再建術の術後の膝前部痛、可動域制限、筋力低下といった欠点を克服し、BTB再建術の初期固定性と長期膝安定性といった利点を最大限に生かした方法であると考えられる。
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結語 |
ACL再建術において、小侵襲にBTBグラフトを採取することにより、復帰時期に近い術後6か月で、STG再建と有意差なく膝前部痛、筋力低下を抑えることができ、著しい伸展制限も認めなかった。これは結果として選手の早期復帰とパフォーマンス向上に繋がるものと考えられる。 |
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参考文献 |
1) |
Lebel B, Hulet C, Galaud B, Burdin G, Locker B, Vielpeau C.
Arthroscopic reconstruction of the anterior cruciate ligament using bone-patellar tendon-bone autograft: a minimum 10-year follow-up.
Am J Sports Med. 2008 Jul;36(7):1275-82. |
2) |
Magnussen RA, Carey JL, Spindler KP.
Does autograft choice determine intermediate-term outcome of ACL reconstruction?
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2011 Mar;19(3):462-72. |
3) |
Beaufils P, Gaudot F, Drain O, Boisrenoult P, Pujol N.
Mini-invasive technique for bone patellar tendon bone harvesting: its superiority in reducing anterior knee pain following ACL reconstruction.
Curr Rev Musculoskelet Med. 2011 Jun;4(2):45-51. |
4) |
Kartus J, Ejerhed L, Sernert N, Brandsson S, Karlsson J.
Comparison of traditional and subcutaneous patellar tendon harvest. A prospective study of donor site-related problems after anterior cruciate ligament reconstruction using different graft harvesting techniques.
Am J Sports Med. 2000 May-Jun;28(3):328-35. |
5) |
Kohn D, Sander-Beuermann A.
Donor-site morbidity after harvest of a bone-tendon-bone patellar tendon autograft.
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1994;2(4):219-23.
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Key words: |
ACL reconstruction |
Key words: |
mini-invasive BTB graft harvest |
Key words: |
anterior knee pain |
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