関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2015 Vol.27 No.1
明らかな脱臼歴のない大腿骨滑車部外側の軟骨損傷の1例
 はじめに
大腿骨滑車部の軟骨剥離は稀な外傷である.その治療には軟骨片の整復固定術や自家骨軟骨柱移植術が選択されるが,稀であるが故,その病態については不明な点が多い.今回,骨端線閉鎖後で大腿骨滑車の低形成があり,明らかな膝蓋骨脱臼を伴わない大腿骨滑車部外側の軟骨剥離の1例を経験したので報告する.
 症 例
症例
  16歳 男性
主訴
  右膝の疼痛および腫脹
既往歴
  特記すべき事項なし
スポーツ
  サッカー
現病歴
  2013年10月、サッカー中,左脚でボールを蹴った際,右膝に疼痛および腫脹が出現したため近医を受診した.保存加療を施行されたが,その後も疼痛,腫脹のためサッカーができず他医を受診,膝蓋大腿関節軟骨損傷の診断にて受傷5か月後に当院紹介となった.
理学所見
  当院初診時には腫脹を認めなかったが、膝関節可動域は伸展‐5度、屈曲140度と軽度の伸展制限を認めた.Lachman test, Posterior drawer testは陰性,内外反動揺性も認めなかった.Apprehension signは陰性であったが,J sign陽性,膝蓋大腿関節に軋轢音を認めた.
画像所見
  X線側面像にて,Dejourの分類でType Bの大腿骨滑車部の低形成を認め,軸写像では、右膝蓋骨は外方にシフトしていた(図1).Insall-Salvait ratioは0.9,Suculs angleは146度であった.近医初診時MRIでは,大腿骨滑車部外側に軟骨欠損を認め,膝蓋上嚢に剥離した軟骨片を認めた(図2. 上段).当院紹介時MRIでは,大腿骨および膝蓋骨骨髄内にT2 highの骨髄内輝度変化を認めた(図2. 下段)が,明らかな遊離軟骨片は認めなかった.CTでは、tibial tubercle-trochlear groove (TT-TG) distanceは20mmと脛骨粗面の外方偏位を認めた(図3) .
関節鏡所見
  骨穿孔術や軟骨片摘出術なども考慮した上で、関節鏡を2014年5月施行した。麻酔下では、膝蓋骨は脱臼しなかった。大腿骨滑車部外側に縦18mm×横10mmの軟骨損傷を認めたが,遊離軟骨片は認めなかった.軟骨損傷部後方の10mm×10mmは線維軟骨での修復組織を認めたが,前方部分は軟骨下骨が露出していた(図4).膝蓋骨側にもICRS分類で3度の軟骨損傷を認めた.膝蓋骨は伸展位付近では外側に偏位しており,膝関節を屈伸させると膝蓋骨のcentral ridgeが大腿骨滑車部外側の軟骨損傷部上を滑走した(図4).
以上の所見より、膝蓋骨亜脱臼により大腿骨滑車部外側の軟骨剥離を来したと診断し、2014年7月内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術を施行した.
手術
  自家半腱様筋腱20cmを二つ折りにし、自由端にFiberWireRおよびTigerWireR(Arthrex, Naples, FL)をKrackow sutureした.膝蓋骨内側縁の中央部とその5mm近位に径1.8mmのK-wireを膝蓋骨外側に向けて刺入し、径4.5mmのドリルにて深さ15mmの骨ソケットを作成した.次に大腿骨内側上顆近位後方より、大腿骨外側の骨皮質に向け径2.4mmのK-wireを刺入し、径5.5mmのドリルにて深さ40mmまでオーバードリルを施行した.オーバードリル前にレントゲンコントロールにより至適位置に骨孔が作成されていることを確認した.その後、移植腱を膝蓋骨骨ソケットに挿入し、ENDOBUTTONR(Smith&Nephew, Andover, MA)にて固定した.移植腱のループ側にあらかじめ取り付けておいたTogglelocR(Biomet Sports Medicine, Warsaw, IN)を大腿骨顆部外側に固定し、膝屈曲45度で膝蓋骨が大腿骨顆部上に整復されるまで、移植腱を骨孔内に導入した.移植腱固定後,外側支帯の緊張を認めたため,外側支帯を切離し,手術を終了した.
術後経過
  手術後2週間の膝装具装着後、可動域訓練を開始した.術後3週より部分荷重を行い、4週で全荷重歩行を許可した.術後、術前の疼痛は消失し、可動域も正常となり,3か月後よりジョギングを開始,6か月でサッカーに復帰した.
図1 上段:術前X線側面像,下段:術前X線軸写像
図2 上段:近医初診時MRI,下段:当院紹介時MRI
図3 3D-CT
図4 関節鏡所見
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 考察
   大腿骨顆部の軟骨剥離は比較的まれな外傷であり,その報告は少なく1, 2)解剖学的素因について言及した報告はない.本症例報告は,膝蓋骨脱臼歴はないものの骨形態異常(Trochlear dysplasiaとTT-TG distanceの増大)と膝蓋骨の亜脱臼を伴った大腿骨外顆前面の軟骨剥離の初めての報告である.
 脱臼した膝蓋骨は外来診察時には整復されていることが多いため,膝蓋骨脱臼は比較的見逃されやすい外傷であるが,本症例では初診時MRIにて膝蓋骨内側および大腿骨外顆内に骨挫傷がなかったこと,Apprehension signが陰性であること,および軟骨欠損部が大腿骨外顆外側端ではなく大腿骨外顆前面であったことより,膝蓋骨脱臼は存在しなかったと考えられる.Keneddyら3)は,大腿骨顆部の骨軟骨骨折あるいは軟骨剥離の受傷機転を5つに分類したが,本症例は明らかな脱臼機転がないことより”a rotary compression force on the lateral condyle”に相当すると考えられる.またTomatsuら4)は,ブタを使った関節面への剪断力を調べた実験にて,軟骨層での剥離は”a high-velocity and low-energy shearing force “が関節面に加わったとき起こると報告している.これらの報告と本症例の特徴を併せ考えると,サッカーでキックをした際,軸脚膝にねじれの力が加わり,TT-TG distanceが大きいために比較的早い速度で膝蓋骨が外方偏位,および亜脱臼し,大腿骨滑車部が浅いため外顆部に直接衝突せずに弱い力での剪断力が加わって軟骨剥離が生じたものと推察される.
 軟骨片摘出術や骨穿孔術を考慮して施行した関節鏡検査では、遊離軟骨片は消失しており,軟骨損傷部は一部再生軟骨に覆われていた。また,膝蓋骨は外側に偏位しており,屈伸にて膝蓋骨中央と大腿骨外顆軟骨損傷部が接触,さらに膝蓋骨側にも軟骨損傷を認めたため,膝蓋骨の外方偏位に対する加療が必要と思われた.膝蓋骨の外方偏位に対する治療法としては脛骨粗面前内方移動術(TTT)あるいはMPFL再建術があるが,TTTは膝蓋大腿関節症が高率に発生する5)ことが危惧されたため,,亜脱臼した膝蓋骨を膝蓋大腿関節中央に移動させ,外側膝蓋大腿関節圧を減圧する目的にてMPFL再建術(+外側支帯解離術)を選択した.MPFL再建術を施行したことによる内側膝蓋大腿関節圧の上昇による膝蓋大腿関節症の可能性については,今後の長期の経過観察が必要である.
 まとめ
   膝蓋骨脱臼歴はないものの骨形態異常(Trochlear dysplasiaとTT-TG distanceの増大)と膝蓋骨の亜脱臼を伴った大腿骨外顆前面の軟骨剥離例を経験した。大腿骨外顆前面の軟骨剥離例の中には,膝蓋骨の亜脱臼により生じた症例もあり,術前の詳細な画像評価が必須である.またそのような症例にはMPFL再建術などのrealignment surgeryが必要である場合もある.
 文献
1) Nakamura N, Horibe S, Iwahashi T, et al. Healing of a Chondral Fragment of the Knee in an Adolescent After Internal Fixation. A Case Report. J Bone Joint Surg Am 86-A:2741-6, 2004
2) Unchida R, Toritsuka Y, Yoneda K, et al. Chondral fragment of the lateral femoral trochlea of the knee in adolescents. Knee 19:719-23, 2012
3) Kennedy J, Grainger W, McGraw R. Osteochondral fracture of the femoral condyles. J Bone Joint Surg 48-B:436-40, 1966
4) Tomatsu T, Imai N, Takeuchi N, et al. Experimentally produced fractures of articular cartilage and bone. J Bone Joint Surg 74-B:457-62, 1992
5) Sillanpaa P, Mattila VM, Visuri T, et al. Ligament reconstruction versus distal realignment for patellar dislocation. Clin Orthop Relat Res 466:1475-84, 2008
Key words: Chondral fracture
Key words: Lateral femoral condyle
Key words: Trochlear dysplasia
E-mail: keikita@hera.eonet.ne.jp

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