はじめに |
近年、骨粗鬆症患者の増加とともに、骨脆弱性を基盤とした骨折が増加している。脆弱性骨折は通常、骨粗鬆症を有する高齢の女性にみられることが多く、壮年期男性に発生した、脛骨内顆脆弱性骨折の報告は少ない。今回、まれな壮年期男性の脛骨内顆に発生した脆弱性骨折の1例を経験したので報告する。 |
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症 例 |
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52歳男性、特に誘因なく歩行時の右膝内側痛が出現し、他医受診の後、1週後に紹介され当科初診となった。仕事は会社員で、通勤では約7000歩、歩行していた。併存症は、高血圧のみで、その他特記すべき既往歴は無かった。身長:177.0cm、体重:75.2kgで、BMIは24.0であった。当科初診時、右膝の疼痛は強く、杖無しでは荷重が困難な状態であった。
右膝理学所見は、脛骨内顆に圧痛を有するのみで、その他異常所見は認めなかった。初診時の単純X線像では明らかな骨折線は認めなかったが、FTAは182°で、脛骨プラトー関節面の脛骨々軸に対する内方傾斜は79°と、11°の内反があり、関節面の内方傾斜に伴う内反膝を認めた。健側には、明らかなアライメントや骨形態の異常は無かった(図1)。他医にて施行されたMRIでは、T1強調像ではあまり明らかではないが、T2強調像で脛骨内顆に、周囲の高信号域を伴った、帯状の低信号域を認めた(図2)。骨性の異常の精査目的で行った2週後のCTでは、脛骨内顆に、周囲の骨硬化を伴った、淡い骨透亮像を認めた。1ヶ月後の、単純X線像では、内顆から水平に走る、周囲の骨硬化を伴った帯状の骨透亮層が明らかになった(図4)。MRIの再検査を行った所、脛骨内顆に周囲の骨髄浮腫を伴う骨折様の所見を認めた(図5)。以上の所見から脛骨内顆脆弱性骨折と診断した。
治療は、まず、松葉杖による免荷を指示し、外側ウェッジの足底板を作成した。さらに、骨密度を測定した所、YAM値の70%であり、骨密度の低下を認めた為、Ca、Vit.D3製剤の内服を開始した。血液検査上、骨代謝マーカー等の異常は認めなかった。保存治療開始6週後に、疼痛は改善し、骨折部の硬化像を認めたが、FTAは187°となり、内反変形の進行を認めた。特に、脛骨プラトー関節面の内方傾斜で11°から15°と、4°の内反変形の進行を認め、この変形が内反膝進行の要因と考えられた(図6)。1年後、疼痛なく、骨密度はYAM値の83%にまで改善認めたが、内反変形は残存している。 |
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考察 |
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脛骨脆弱性骨折の過去の報告では、脛骨プラトーでの発生率は3%と稀である1)。また、初診時にX線検査で診断できる確率は30.7%と、診断に難渋するとされており、66.7%の症例で膝内反変形を伴っていた。さらに、早期診断にはMRIが有用であると報告されている2,3,4)。
50代の日本人男性における骨粗鬆症の有病率は、3.5%と報告されており5)、疫学においても本症例の年代の男性で骨粗鬆症を基盤として発生する脆弱性骨折を来たすことは稀であると考える。
本症例の発症機序としては、元々脛骨の内方傾斜に伴う内反膝があり、さらに、通勤で7000歩という距離を歩くというような、荷重時に繰り返される内反ストレスが脛骨近位部にかかり、骨粗鬆症による脆弱性も加わって、壮年期男性においても、脛骨内顆の脆弱性骨折が生じたと考える。
治療上の反省として、男性かつ、この年齢での脆弱性骨折は初診当初には念頭になく、治療開始が遅れ、十分に免荷もできなかったことで、内反変形が進行してしまった事が挙げられる。このような変形治癒を防ぐためにも早期診断・早期治療が必要であると考えられた。 |
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まとめ |
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壮年期男性の、脛骨内顆脆弱性骨折を経験した。免荷、足底板で保存的加療を行ったが、経過とともに内反変形が進行した。特に既往のない壮年期男性においても、膝痛の原因として本症が発生し得る事を念頭に置く必要がある。 |
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参考文献 |
1) |
Manco LG, Schneider R, Pavlov H: Insufficiency fractures of the tibial plateau. Am J Roentgenol 1983;140:1211-1215. |
2) |
Satku K, Kumar VP, Pho RW. Stress fractures of the tibia in osteoarthritis of the knee. J Bone Joint Surg Br 1987;69:309. |
3) |
Prasad N, Murray JM, Kumar D et al. Insufficiency fracture of the tibial plateau : An often missed diagnosis. Acta Orthop. Belg 2006;72:587-591. |
4) |
Lassoued S, Billey T. Synovial effusions at the knee as the inaugural manifestation of stress fracture of the proximal tibia. Rev Rhum Engl Ed 1996;63:65-8. |
5) |
Orimo H, Nakamura T, Hosoi T et al. Japanese 2011 guidelines for prevention and treatment of osteoporosis-executive summary. Arch Osteoporosis 2012;7:3-20. |
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Key words: |
Insufficiency fracture |
Key words: |
Proximal Tibia |
Key words: |
Late middle age |
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