関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
会長挨拶 本研究会について 役員名簿 入会案内
Top Page
研究会誌投稿規定 研究会のお知らせ 関連学会・研究会のご案内
関西関節鏡・膝研究会誌 2013 Vol.25 No.1
外側アプローチにて摘出したファベラ症候群の1例
 目的
 外側アプローチにて摘出したファベラ症候群の1例を経験したので報告する。
 症 例
 40歳男性、主訴は左膝後外側部痛と引っかかり感。現病歴は約10年前より左膝の疼痛、引っかかり感を自覚、特に長時間のランニング後や、階段昇降時に膝後外側部痛が出現し、近医で加療するも症状改善なく当科受診した。職業は体育教師でスポーツ歴として小学時代より野球、日常的にジョギングを継続している。理学所見では左膝に腫脹、膝蓋跳動は認めず、膝可動域は伸展0°から屈曲135°、過伸展時の膝外側部痛、外側関節裂隙の圧痛、Friction rotation testで外側部疼痛の増悪を認め、所見からは外側半月板損傷が疑われた。下肢筋力低下や知覚障害は認めなかった。単純X線上は脛骨外側関節面に軽度の骨棘を認めた。MRI上は外側半月板内部に輝度変化を認め、膝後外側部痛の自覚症状、理学所見、MRI所見より左膝外側半月板損傷を疑い関節鏡を施行した。関節鏡所見では外側半月板に明らかな損傷、不安定性は認めず、他の関節内病変も認めず、外側半月板損傷は否定され、持続する膝後外側部痛、膝完全伸展時の疼痛増悪、ファベラ周囲に限局した圧痛と引っかかり感を認めることからファベラ症候群を疑い、摘出術を施行した。なお、画像上はファベラ周囲に明らかな異常所見は認めなかった(図1)。

 手術は外側アプローチで施行した。仰臥位、膝90°屈曲位とし、膝外側に大腿二頭筋前縁に沿った皮切を加え、筋膜を切開し、腸脛靭帯後縁と大腿二頭筋前縁の間を鈍的に分け、総腓骨神経は大腿二頭筋と共に後方へレトラクトし、腓腹筋外側頭腱成分を同定(図2)、腱成分内にファベラを触知し、その直上を線維方向に切開し、腱成分内のファベラを同定し、周辺組織から剥離しファベラを摘出した(図3)。ファベラの関節軟骨面には象牙様変化を認めた(図4)。術直後より膝伸展時の後外側部の疼痛は改善し、引っかかり感は消失した。
図1 画像上はファベラ周囲に明らかな異常所見は認めなかった
図2 膝外側に大腿二頭筋前縁に沿った皮切を加え、筋膜を切開、腸脛靭帯後縁と大腿二頭筋前縁の間を鈍的に分け、腓腹筋外側頭腱成分を同定
図3 腱成分内にファベラを触知し、その直上を線維方向に切開し、腱成分内のファベラを同定し、周辺組織から剥離しファベラを摘出した
図4 ファベラの関節軟骨面には象牙様変化を認めた
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 考察
   ファベラは、ラテン語でlittle beanを意味する種子骨で、その発生率は10から30%と様々で、本邦の解剖研究では66から81%に認められたとの報告もあり、腓腹筋外側頭の大腿骨外側顆付着部腱成分内に存在し、外側顆後面と硝子軟骨で関節を形成し、膝後外側安定性に寄与している。ファベラ症候群は、比較的稀な疾患で、Lepoutreが最初の1例を報告し1)、その後Weinerらが4例を症候群として報告し2)、本邦でも報告が散見される。年齢、性別は10代の報告が多いが様々で、特徴的な症状、所見として鋭い膝後外側の疼痛、膝完全伸展による疼痛の増強、ファベラ周囲に限局した圧痛を認める。病因としては、ファベラ軟骨面軟化、退行変性、象牙化などを伴う関節面不整像、周囲の滑膜炎、骨性突出による腱肥厚を伴う腱炎などがあり、症状が外側半月板損傷と類似しており、確定診断が困難なこともある。治療としては、保存療法ではストレッチ、ROM訓練、マッサージや、エコーガイド下にファベラ関節にステロイド注射し有効であったなどの報告も散見されるが、症状が残存する可能性がある。一方で、ファベラ摘出術による手術療法は、有用で良好な術後経過が報告されている。Weinerらは、ファベラ症候群の16例中11例に対し、腹臥位にて後方アプローチで膝窩部外側より総腓骨神経を同定、剥離、外側へレトラクトし、腓腹筋外側頭を露出させ、ファベラを摘出し全例で疼痛が消失し良好な術後経過であったと報告している3)。また、Zentenoらは競技レベルランナーに外側アプローチでファベラを摘出し良好な術後経過を認めたと報告しており4)、我々も本症例に対して外側アプローチを用いたが、総腓骨神経は大腿二頭筋と共に後方へレトラクトされ、安全にファベラを同定、摘出可能であり、神経症状のない時は有用な術式であると思われる。ファベラ症候群の病態としては、Weinerはファベラ軟骨面の軟化、退行変性が主体と述べており2, 3)、また武部らは膝伸展時の腓腹筋の繰り返す収縮によるファベラと大腿骨外側顆の異常な機械的圧迫により関節面の変性や腓腹筋腱の炎症が起きると述べており5)、関節内外の所見が関与しているとされる。自験例でも関節内所見としてファベラ関節軟骨面の象牙様変化を、関節外所見として膝伸展時の引っかかり感を認めた。本症例では、持続する膝外側部痛より外側半月板損傷を疑い関節鏡施行したが、外側半月板損傷は認めず、ファベラ周囲に限局した圧痛と引っかかり感よりファベラ症候群を疑い、外側アプローチで摘出術を施行した。術直後より症状は改善したが、診断までには時間を要し、触診が十分でなかったとの反省がある。このことから、膝外側部痛が持続する時にはファベラ症候群も念頭に置き、十分な触診をするべきであると思われた。
 まとめ
   外側アプローチにて摘出したファベラ症候群の1例を経験した。外側アプローチは安全にファベラを同定、摘出可能な有用な術式と思われ、膝外側部痛が持続する時にはファベラ症候群も念頭に置くべきである。
 参考文献
1) Lepoutre C. Sesamoide douloureux (sesamoide du jumeau externe). Rev Orthop 1929; 16: 234-6.
2) Weiner DS, Macnab I, Turner M. The fabella syndrome. Clin Orthop 1977; 126: 213-15.
3) Weiner DS, Macnab I. The“fabella syndrome”: an update. J Pediatric Orthop 1982; 2: 405-8.
4) Zenteno BC, Morales IC, De la Torre IG. Fabella syndrome in a high performance runner. case presentation and literature review. Acta Orthop Mex 2010; 24: 262-4.
5) 武部恭一, 石川斉, 広畑和志. ファベラ症候群について. 臨整外 1982; 17: 957-62.
Key words: fabella
Key words: posterolateral knee pain
Key words: lateral approach

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society