はじめに |
膝前十字靭帯(以下ACL)断裂は、膝の不安定性を発生し、長期間放置すれば二次性変形性膝関節症(以下OA)を生じることが知られている。ACL断裂に続発した膝OAに対する手術療法としては、近年HTOとACL再建の併用がよいとする報告が散見される。今回、我々は、ACL再建術後の再断裂に合併した内側型膝OAに対し、高位脛骨骨切り術(以下HTO)とACL再建術の同時手術を施行したので報告する。 |
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症 例 |
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43歳、女性。20歳時に右膝ACL断裂に対し、人工靭帯(Leeds-Keio靭帯)を用いたACL再建術を受けた。30歳頃より右膝痛が出現し、疼痛が増強したため当科を受診した。当科初診時、膝関節の可動域は両側とも伸展0度、屈曲150度であり、右膝の内側関節裂隙に圧痛を認めた。前方引き出しテストおよびLachman testは共に陽性であったが、後方引き出しテストは陰性、Posterior saggingも認めなかった。内外反の不安定性はなく、McMurray testでは内側手技、外側手技とも陰性であった。単純X線にてFTAは両側とも176度であったが、ローゼンバーグ肢位では右膝内側関節裂隙の狭小化を認めた。単純MRIではACLの再断裂を認め、大腿骨内顆の軟骨は消失していた(図1)。右膝ACL再断裂+内側型膝OA(進行期)と考え、Opening wedge HTOとHamstringを用いたACL再建の同時手術を施行した。
手術は全身麻酔+大腿神経ブロック、仰臥位で行った。まず関節鏡を用いて関節内鏡視を行った。大腿骨側、脛骨側とも外顆の軟骨は残存していたが、内顆では軟骨欠損がみられた。顆間部では、Leeds‐Keio靭帯には全周性に瘢痕形成がみられ、Leeds‐Keio靭帯は脛骨側で断裂していた(図2)。関節内に残存しているLeeds‐Keio靭帯および周囲の瘢痕組織はすべて除去した。次に、脛骨結節の内側に弧状切開を加え、半腱様筋腱を採取した。半腱様筋腱は4重折とし、preparationを行った。続いてSmith and Nephew社のACUFEXのシステムを用いて、ACL再建用の骨孔を作製した。大腿骨側はTrans-tibialに骨孔を作製した。この状態で、同皮切を用いて、Opening wedgeによるHTOを施行した。脛骨の骨切り高位は、グラフト固定用のDSPよりも末梢にくるようデザインし、術前計画に従い%MA=62%、内側骨皮質8mm開大を目標とし骨切りを行った。固定はSynthes社のTOMOFIX Japaneseを使用した。最後に4重折りにした半腱様筋腱を骨孔内に挿入し、ACLを再建した(図3)。大腿骨側はENDOBUTTON CL、脛骨側はDSPを使用した(図4)。
術後はDONJOY社のACL braceを使用し、伸展を-10度、屈曲を90度に制限した。術後4週で可動域制限を解除した。荷重は術後3週より1/3荷重、術後4週より1/2荷重、術後5週より全荷重を許可した。
術後4か月の最終診察時、右膝関節の可動域は伸展0度、屈曲135度であり、時に軽度の右膝痛を認めるのみで、術前に比べて著明な疼痛の改善を認めた。前方引出テストおよびLachman testは陰性で、膝の前方不安定性は消失していた。単純レントゲンでは、骨切り部の骨形成は外側から内側に向けて進んでいるのが確認できたが、FTA169度、%MA=78%とやや過矯正であった。 |
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考察 |
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若年者のACL不全を伴う内側型膝OAに対する手術方法としては、除痛目的で行うHTOと、膝の安定性獲得の目的で行うACL再建術が考えられる。初期の膝OAではまずACL再建のみで十分な治療効果が得られ、必要に応じて二期的にHTOを行うのが望ましいとする報告もあるが1)、本症例のように、進行期のOAに対しては、ACL再建単独では十分な除痛効果が得られないことが予想される。また、HTO単独では初期の除痛効果は期待できるものの、膝の安定性の獲得は期待できないため、長期的にはOAが進行する可能性があり、能地らは、陳旧性ACL断裂に続発した二次性内側型膝OAに対してHTOのみ施行したが、疼痛と不安定性が増強し、再HTOとACL再建術の同時手術を施行したことを報告し、HTOとACL再建術の併用を推奨している2)。
HTOとACL再建術を併用することにより、不安定性の改善と荷重モーメントの改善の両立が可能となり、近年ではHTOとACL再建術の併用がよいとする報告が増えている。 HTOの方法とACL再建方法の組み合わせとしは、ドーム状骨切りと膝蓋腱を用いた一重束再建2)(能地ら)、Closed wedge HTOとハムストリングを用いた一重束再建3)、Opening wedge HTOとハムストリングを用いた二重束再建4)、Opening wedge HTOとハムストリングを用いた二重束再建5)など様々な方法があり、いずれも良好な治療成績が報告されている。これらは二期的に行えば、手技は容易となるが、治療が長期に及ぶため、意欲の低下や社会復帰の遅延などを来すという問題が生じる。一方、一期的に行えば治療期間を短縮し、早期の社会復帰が可能となるが、HTOの内固定具とACL再建用の骨孔の位置関係が問題となるなど、手術手技はやや困難となる3)。
今回我々は、治療期間の短縮、早期の社会復帰を目指し、Opening wedge HTOとハムストリングを用いた一重束ACL再建の同時手術を施行した。ACL再建用の骨孔を作製したのちにHTOを施行し、最後にACLのグラフトを挿入することで、骨孔と内固定具が干渉することなく比較的容易に手術が行えた。術後4か月の最終フォローアップ時、除痛効果および膝の安定性ともに良好で、早期の社会復帰が可能となった。以上よりACL不全を伴う内側型膝OAに対して、HTOとACL再建術の同時手術は有用な治療法であると考える。しかし、本症例においては、フォローアップ期間が短期であり、またTHOの矯正角度がやや過矯正であることもあり、今後引き続き慎重な経過観察が必要である。 |
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結語 |
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ACL再建術後の再断裂に内側型膝OAを合併した症例に、HTOとACL再建の同時手術を施行し、短期フォローではあるが良好な成績が得られた。HTOとACL再建の同時手術は、除痛や膝の安定性の獲得だけでなく、早期の社会復帰が期待でき、有用な方法であると考える。 |
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参考文献 |
1) |
Shelbourne KD, John H, Wilckens et al : Intraarticular anterior cruciate ligament reconstruction in the symptomatic arthritic knee. Am. J. Sports Med. 1993; 21: 685-688. |
2) |
能地 仁、 宮津 誠、 徳弘 聡ほか : ACL不全を伴う2次性内側型変形性膝関節症に対し高位脛骨骨切り術を施行した1例(10年経過例). 北海道整形災害外科雑誌. 1994; 37: 100-103. |
3) |
宮本 礼人、 出家 正隆、 安達 伸生ほか: 膝前十字靭帯再建術と高位脛骨骨切り術を同時に施行した3症例. 中四整会誌. 2006; 18(2): 223-227 |
4) |
伊藤 聡、 三谷 玄弥、 高垣 智紀ほか: 変形性関節症を併発した膝前十字靭帯損傷の再々建術に高位脛骨骨切り術を同時に施行した一例. JOSKAS. 2010; 35: 348-351. |
5) |
金子 大毅、 三尾 健介、 中谷 創ほか: 陳旧性前十字靭帯損傷に伴う変形性膝関節症に対して高位脛骨骨切り術と前十字靭帯再建術を同時に施行した2例. JOSKAS. 2012; 37: 504-508 |
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Key words: |
high tibial osteotomy |
Key words: |
revision anterior cruciate ligament reconstruction |
Key words: |
osteoarthritis |
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