はじめに
膝の滑膜斜索は通常の膝関節に存在するが、あまり知られていない。今回我々はその滑膜斜索の障害に対し手術を行なった2例を経験した。
症 例 1
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患者
20歳男性
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主訴
左膝関節痛
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現病歴
H23年2月頃より左膝外側の最大伸展時痛を自覚するようになった。特に自転車で坂道を立ちこぎで登る際に痛みが強くなり、クリックも生じてきた。安静にても、症状が改善しないために同年5月受診した。
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所見
McMurray testなどの理学所見は特に異常を認めなかったが、完全伸展位から屈曲をしていくと、約30度で外側膝蓋下にクリックを生じた(図1:マーキングの直下)。血液・生化学検査に異常所見は認めなかった。
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既往歴
6年前の14歳時に外傷性膝蓋骨亜脱臼の診断をうけ関節鏡を施行したが、麻酔下でも脱臼を来さず、特に処置を行わなかった。またこの際、円板状半月板も認めなかった。
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家族歴
特記すべきことなし。
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画像所見
単純レントゲンでは、やや膝蓋骨高位を認めたものの特に異常をみとめなかった。またMRIにても特に異常を認めなかった。
保存治療にても軽快しない為、後日関節鏡視下手術を施行した。
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手術所見
外側PFに索状の滑膜の腫瘤様増生を認めた(図2)。鋭匙鉗子や電気メスなどにて切除した。
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病理所見
滑膜の肥厚・線維化、リンパ球の浸潤を認めた。
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術後経過
術翌日よりクリックは消失、最終調査時(術後1年3か月)症状の再発はなかった。以上より滑膜斜索障害と診断した。
図1
マーキングの直下
図2
外側PFに索状の滑膜の腫瘤様増生を認めた
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
症 例 2
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患者
29歳男性
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主訴
右膝関節痛
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現病歴
H22年9月頃からゴルフの打ちっぱなしを頻回に行なったためか、右膝関節外側の最大伸展位時痛およびクリックを自覚するようになった。安静にしていたが、症状が軽減しないため同年10月受診した。
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所見
McMurray testなどの理学検査では異常を認めなかったが、最大伸展位から屈曲していくと約30度で外側膝蓋下にクリックを生じた。血液・生化学検査では異常なかった。
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家族歴・既往歴
特記すべきことなし。
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画像所見
単純レントゲン、MRIともに特に異常を認めなかった。
保存治療にても軽快しない為、後日関節鏡視下手術を施行した。
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手術所見
膝蓋大腿関節外側に滑膜の腫瘤様増生をみとめたため(図3)、関節鏡視下に切除した。
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術後経過
術翌日よりクリックは消失し、痛みも軽減した。最終調査時、再発もなく経過良好である。
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考察
滑膜斜索(Chorda Obliqua Synovialis)とは、1951年渡辺らが提唱し、1960年高橋が1,000名2,000膝関節の診察にて検証し報告したことで明らかにされたものである。
解剖としては膝関節の滑膜の1部分で内外側に1本ずつ存在する。起始部は膝蓋骨上中1/3〜中央で、大腿脛骨関節面に停止する。伸展時に索状物として触知され、屈曲にて消失するというアコーディオン様の特性を持つ。Insallらの指摘する、patellotibial ligamentの深層に位置している。また出生後平均1歳7か月で触知され始め、下肢の麻痺などにて消失することや、外傷や安静臥床などで一旦消失したものが、荷重歩行となれば再び触知されることから、歩行能力と密接に関係すると考えられる。
痛みとクリックを生じるという症状を呈する滑膜斜索障害の発症機序は、松岡らによると、膝蓋大腿関節のMalalignmentなどの存在に、スポーツ活動で大腿外側顆に滑膜がより接触することになり、滑膜の炎症・増生、肥厚が生じ摩擦が多くなることが繰り返されるからであるとしている。本症例1でも膝蓋骨の亜脱臼が認められていたことから、同様の機序が考えられる。
一方で文献検索にては数例の報告のみであり、海外ではほとんど報告がないことから、当初注目されたが実際の臨床では手術に至るケースが少ないと思われた。また、excessive lateral pressure syndromeのように外側支帯の緊張が素因とされる症状に含まれている可能性も考えられる。
図3
膝蓋大腿関節外側に滑膜の腫瘤様増生を認めた
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
まとめ
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膝の滑膜斜索障害の2例を経験した。
・
滑膜斜索障害は膝関節の痛みとクリックを来す疾患の1つとして認識しておく必要がある。
参考文献
1)
高橋庄平:膝関節の滑膜斜索Chorda Obliqua Synovialisについて.逓信医学.12:1113,1960
2)
松岡彰 ほか:スポーツ選手の両膝にみられた外側滑膜斜索障害の3例.関節鏡,Vol.22:195-199,1997
3)
Insall,J.N.:Surgery of the knee.Churchill Livingstone,New York,8-9,1984
Key words:
knee,disorder,Chorda
Key words:
Obliqua
Key words:
Synovialis
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