関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
会長挨拶 本研究会について 役員名簿 入会案内
Top Page
研究会誌投稿規定 研究会のお知らせ 関連学会・研究会のご案内
関西関節鏡・膝研究会誌 2011 Vol.23 No.1
ポリエチレン混合糸を用いて骨接合を行った脛骨粗面裂離骨折の1例
 はじめに
脛骨粗面は常に大腿四頭筋の緊張が加わる部位であるため、骨接合の際には強力な固定が必要である。今回われわれは高張力を有したポリエチレン混合糸を用いて骨接合を行った脛骨粗面裂離骨折の1例を経験したので報告する。
 症 例
患者
  15歳、男子、身長175 cm、体重50 kg
主訴
  右膝痛
現病歴
  空中前転をしようとジャンプして踏み込んだ際、右膝前方に疼痛が出現し歩行困難になった。近医へ搬送され当科を紹介受診した。
既往歴
  特記事項なし
身体所見
  右膝脛骨粗面に腫脹と圧痛があった。関節可動域は伸展-20度、屈曲45度であった。膝蓋跳動はなく感覚障害や循環障害を認めなかった。
画像所見
  初診時単純X線側面像で脛骨粗面の裂離骨折と脛骨近位骨端線損傷を認めた(図 1)。初診時単純CT像およびMRI T2脂肪抑制像で脛骨粗面と脛骨近位骨端との間にも骨折線を認めた(図 2)。骨端線は閉鎖傾向にあった。
診断
  右脛骨近位骨端線損傷を伴う脛骨粗面裂離骨折、Watson-Jones分類のtype W、Ogden分類のtype 2Aと診断し手術を行った。
手術所見
  まずイメージ透視下に膝関節を伸展して骨折部を整復し、径4.5mmの海綿骨スクリュー2本を逆行性に挿入し近位骨端を固定した。次に脛骨粗面上に横皮切を加えて膝蓋腱を露出し、膝蓋腱正中を割いて径4.5mmの海綿骨スクリューを挿入し脛骨粗面を固定した。5号ポリエチレン混合糸(FiberWire®)を用いたside-locking loop technique 1)で膝蓋腱遠位を縫合し把持した。縫合糸を皮下に通して遠位に抜き径2.4mmのパッシングピンを用いて内側から外側へ向けて脛骨稜を貫通させた。脛骨稜の外側で縫合糸に緊張を加えながら結紮し脛骨粗面を固定した(図 3, 4)。
術後経過
  術後固定期間は1週間、免荷期間は3週間とした。術後3か月の単純エックス線像およびCT像で良好に骨癒合していることを確認しスポーツ復帰を許可した。術後6か月を経過し右膝に腫脹や圧痛はなく関節可動域制限、extension lagを認めていない。
考察
  脛骨粗面裂離骨折はすべての骨端部損傷のうち1%未満に生じるまれな骨折である。
脛骨粗面裂離骨折の発生機序のひとつはジャンプ跳躍のように下腿が固定された状態で大腿四頭筋の急激な収縮により脛骨粗面に強い牽引力が加わって発生するもの、もうひとつはジャンプ着地のように大腿四頭筋が緊張した状態で膝屈曲が生じて発生するとされている2)。本症例では受傷肢位や、骨折線が骨端線後方に及んでいたことから後者の機序で発生したものと考えた。
脛骨粗面は常に大腿四頭筋の緊張が加わる部位であるため、強固な固定と慎重な後療法が必要である。過去の報告によると脛骨粗面裂離骨折術後の一般的な固定期間は2-6週間、免荷期間は2-8週間とされている2)。膝蓋腱にかかる張力は、免荷での関節可動時に最大300N、全荷重歩行で1000N、大腿四頭筋の等尺性収縮で2800N、ランニングで3500N、ジャンプで7000Nと言われている3)。径5.0-6.5 mmの海綿骨スクリューの軸方向の引き抜き強度は300-1000 Nと母床骨の質によってばらつきが大きい4)。さらに脛骨粗面を固定したスクリューにかかる牽引力は、実際にはスクリューの軸方向より傾くため、その強度は減弱する可能性がある。したがって安全に関節可動運動を行うためには骨折部の強度が上昇するのを待って開始する必要がある。一方、本症例で用いた5号ポリエチレン混合糸の縫合部破断張力は600 Nである5)。縫合糸は金属ワイヤーと比較して皮膚障害が少なく、抜釘が不要であり、繰り返しの負荷に強いことから、近年膝蓋骨骨折や肘頭骨折などに多く使用されるようになっている。本症例ではポリエチレン混合糸による引き寄せ締結法を追加することにより、術後早期から安全域でROM訓練が可能になると考え固定期間を1週間とし良好な成績を得ることができた。
図1 初診時単純X線像:脛骨粗面裂離骨折および脛骨近位骨端線損傷を認めた(矢印)。
図2 初診時単純CT像およびMRI T2脂肪抑制像:脛骨粗面と脛骨近位骨端との間にも骨折線を認めた(矢印)。
図3 術中写真:5号ポリエチレン混合糸を用いたside-locking loop techniqueで膝蓋腱遠位を縫合し把持し引き寄せ締結法による固定を行った。
図4 術後単純X線像
※上記画像をクリックすると拡大表示されます。
 まとめ
  ポリエチレン混合糸を用いて骨接合術を行った脛骨粗面裂離骨折の1例を報告した。
 参考文献
1) Kuwata S, Mori R, Yotsumoto T, et al.: Flexor tendon repair using the two-strand side-locking loop technique to tolerate aggressive active mobilization immediately after surgery. Clin Biomech 2007; 22: 1083-1087.
2) Inoue G, Kuboyama K, Shido T: Avulsion fractures of the proximal tibial epiphysis. Br J Sp Med 1991; 25: 52-56.
3) Huberti HH, Hayes WC, Stone JL, et al.: Force ratios in the quadriceps tendon and ligamentum patellae. J Orthop Res 1984; 2: 49-54.
4) Patel PSD, Shepherd DET, Hukins DWL: The effect of screw insertion angle and thread type on the pullout strength of bone screws in normal and osteoporotic cancellous bone models. Med Eng Physics 2010; 32: 822-828.
5) Yotsumoto T, Miyamoto W, Uchio Y: Novel approach to repair of acute Achilles tendon rupture. Am J Sports Med 2010; 38: 287-292.
Key words: Avulsion fracture
Key words: tibial tuberosity
Key words: braided polyblend suture

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society