はじめに |
ガングリオンは一般に関節周囲の軟部組織・腱鞘より発生する嚢胞性病変であり、骨膜下に発生することは稀である。
今回われわれは、脛骨近位内側の骨膜下に生じたガングリオンの症例を経験したので報告する。 |
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症 例 |
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患者 |
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80歳女性 |
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主訴 |
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右膝痛 |
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現病歴 |
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70歳時より右膝の重たい感じを自覚。79歳から右膝痛を自覚。近医にて変形性膝関節症(以下膝OA)を指摘され通院していたが、右膝疼痛増悪したため 2008年2月に当科紹介となった。 |
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現症 |
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右膝は内反変形。軽度の腫脹は認めたが、局所熱感はなく、内側関節裂隙に圧痛を認めた。内側顆には圧痛はなく、可動域は-50〜100°と制限を認めた。内外反の動揺性は認めなかった。 |
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画像所見 |
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レントゲン(図1-a, b)では、正面像でFTA192度の内反型の関節症性変化を認めた。脛骨内側顆に15×26mmの骨透亮像を認め、骨皮質欠損・周囲の骨硬化を認めた。側面像では脛骨の中央から後方に25×24mmの骨透瞭像を認めた。CT-MPR(図1-c, d)では脛骨近位内側の軟骨下骨の欠損と骨硬化が認められた。MRI(図2)では脛骨近位内側の骨膜下にT1低信号像, T2高信号像の境界明瞭な腫瘤を認めた。造影MRIでは腫瘤壁の造影を認めた。 |
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経過 |
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腫瘤の診断のために術前に穿刺を行い、ゼリー状の内容物を吸引。細胞診は陰性であり、術前診断をガングリオンとした。2008年4月に右人工膝関節置換術と同時に脛骨近位内側骨膜下の腫瘤を切除した。 |
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手術所見 |
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脛骨近位内側骨膜下にゼリー状の透明な内容物を認めたが、膝関節との交通は明らかではなかった(図3)。皮膜を含めて切除し、病理組織検査へ提出した。 |
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病理所見 |
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線維性結合組織からなる嚢胞壁を認めガングリオンに相違ない所見であった(図3)。 |
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術後経過 |
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術後1年の経過では、右膝痛は消失し、レントゲン上局所再発は認めていない。 |
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考 察 |
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骨内外周囲のガングリオンの分類であるが、古賀ら1)は文献上骨内外に発生するガングリオンを大きく3つに分けて分類し、T型は骨皮質に接しているタイプ、U型はT型が骨皮質欠損部を通じて骨髄内に入っているタイプ、V型が骨髄内に発生するタイプとした。本症例は骨皮質欠損部を通じて骨髄内に入っているII型と考えられた。本症例では骨膜下ガングリオンとしたが、文献1)2)により骨膜下・骨内との両方の考え方があり、厳密な鑑別は困難であると考える。骨膜下ガングリオンの過去の報告3)4)5)では、年齢は30歳以上の男性に多く、発生部位は脛骨骨幹部が最も多く、その他に脛骨近位骨端、大腿骨遠位骨端、橈骨骨端部に見られる。症状はないか、あっても局所の軽度の腫脹や疼痛で、局所の腫瘤切除で良好な成績が得られている。 本症例では、高度の膝OAに合併していたため、人工膝関節置換術と同時に腫瘍切除を行い、除痛が得られたが、ガングリオンの発生部位が脛骨コンポーネントの近傍であり、人工関節の長期成績に影響がないか、慎重に経過観察を行う必要があると考える。 |
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まとめ |
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高度内反膝に合併した脛骨近位内側の骨膜下ガングリオンを経験した。人工膝関節置換術と腫瘍切除を同時に行い、短期ではあるが良好な成績が得られた。 |
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参考文献 |
1) |
古賀三郎ほか:骨内・外に交通して存在した肘頭部ganglionの1例.整形外科1974;25:1022-1026. |
2) |
Schajowicz, F. et al.: Juxta-articular bone cyst (intra-osseous ganglia); a clinicopathological study og eighty-eight cases. J Bone Joint Surg. 1979;61-B:107-116. |
3) |
Byers PD. et al.: Periosteal ganglion. J Bone Joint Surg. 1970;52-B:290-295. |
4) |
Kenan, S. et al.: Periosteal Ganglion;case report and review of the literature. Bull Host Jt Dis Orthop Inst 1987;47:46-51. |
5) |
Maeseneer. et al.: Subperiosteal ganglion cyst of the tibia. A communication with the knee demonstrated by delayed arthrography. 1999;81-B:643-646. |
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Key words: |
Periosteal ganglion |
Key words: |
Tibial condyle |
Key words: |
Osteoarthritis |
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