関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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関西関節鏡・膝研究会誌 2008 Vol.20 No.1
膝関節内に発生したガングリオンの1症例
 はじめに
 膝関節の可動域制限を伴う疼痛を主訴とする疾患はさまざまである。今回我々は同症状を訴えた膝関節内に発生したガングリオンを経験したので報告する。
 症 例
患者
  51歳の女性
現病歴
  平成19年6月頃より特に誘因なく右膝の最大屈曲時痛生じ他院受診した。その後3ヶ月経過したが、症状の改善がみられなかったため精査・手術目的にて紹介された。

初診時所見

  最大屈曲時痛に加え、長徒歩行困難が見られた。
家族歴、既往歴に特記すべきことなし。また外傷歴もなかった。
関節可動域は、屈曲/伸展:右110/0左140/0、その他の理学所見にてPatella ballottment:右(−)左(−)、Lachmann test:右(−)左(−)、前・後方引き出し:右(−)左(−)、内・外反動揺性:右(−)左(−)、McMurray test :右(−)左(−) といずれも異常は認めなかった。
画像所見
  単純エックス線撮影では軽度骨萎縮は認めるものの、その他特に異常認めなかった。MRIは冠状断では顆間部にT1LOWT2HIGHIAの種瘤像を認めた。
矢状断撮影でも同様に十字靭帯間から後方、および中枢に連続したT1LOWT2HIGHIAの種瘤像を認めた(図1)。
手術所見
  全身麻酔下に関節鏡施行。内外側膝蓋下穿刺にてアプローチ、ACL・PCL間でパンチ・シェーバー・焼灼などを用い白色の被膜を露出し可及的に切除した。被膜はACLや後方の関節腔とは遊離しており、PCLに連続しているように思われた。また、切除の際内部からはやや血性の粘調の流出物を見た。
病理所見
  のう胞壁と思われる部位に肥厚した線維形成が認められ、ライニング細胞の層も認めずガングリオンと診断された。(図2)
術後経過
  翌日より歩行許可、疼痛は徐々に軽減した。最終調査時術後5ヶ月で関節可動域の制限なく正座可能となり、疼痛は消失、長徒歩行も可能となった。術後のMRIでは術前の腫瘤像は消失していた(図3)。
図2
 考 察
 膝関節内ガングリオンの発表は国内外共に、数例までの症例報告にとどまっているが、近年のMRIの普及に伴い増えつつある。
  われわれが渉猟しえた過去約5年間の本邦の発表例をまとめてみると、発生部位はACLおよびPCLからが多かった。また、それぞれのガングリオンの存在部位は、ACLは関節内前方、PCLは関節内後方に位置するようであった。
 両靭帯からの発生例に対する治療方法は、ACL発生例は透視下穿刺のものもあるが、PCL発生例は穿刺することが部位的に困難であり、ほとんどが鏡視下手術を選択している。
直視下手術に比べ鏡視下手術にて切除する場合、その大きさや部位によっては可及的切除とならざるを得ないが、再発の報告例は少ない。
  鑑別診断としては滑液嚢胞が挙げられる。これは、嚢胞にはライニング細胞を認めるがガングリオンには認められないことにより鑑別可能である。
 また、鏡視下の手術方法について、一般的な膝蓋下進入に加え後内側進入も追加する症例報告が見られた。特にPCL発生例の場合、関節内後方に存在する腫瘤をより同定しやすくなるといえる。今回のわれわれの症例も、後内側進入を追加すれば腫瘤を同定しやすかったのかも知れない。ただしこの際、伏在神経の存在には十分注意しておく必要がある。以上より、膝十字靭帯に発生したガングリオンに対する関節鏡視下での切除は、比較的侵襲が少なく再発率も低い有用な方法であるといえよう。
 まとめ
1) 膝十字靭帯に発生したガングリオンを経験した。
2) 同ガングリオンに対し前方からのみの関節鏡視下にて切除し得た。
 参考文献
1) 中田善博,星 忠行 他:後十字靭帯由来と思われた滑液嚢腫の1例.東北膝関節研究会会誌,14:17-19,2004
2) 上田広伸,熊野文雄 他:膝関節十字靭帯近傍に発生したガングリオンの5例.中部整災誌,45:1033-1034,2002
3) Caan,P:Zystenbildung(Ganglion)imLigamentumcruciatumant.genus.Deut.Z.Chir.,186:403-408,1924
4) 梅本裕介 他:膝前十字靭帯実質より発生した関節内ガングリオンの1例.関節鏡,27:1-4,2002.
Key words: PCL,ganglion,scopy

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