関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
 有痛性分裂膝蓋骨は発育期における膝関節の代表的な骨軟骨障害である。成因については、繰り返される大腿四頭筋の牽引力による骨化異常など様々な説があり、まだ明らかではない。治療は一般の多くの症例は、スポーツ活動の制限ならびに大腿四頭筋のストレッチングを中心とした保存的治療にて疼痛は軽減する。しかしながら、一部の症例において保存的治療に抵抗し手術を要する場合がある。今回我々は、Headless Bone Screw(以下HBS)用いて観血的治療を行った5症例について、その治療成績ならびに手術適応について報告する。
 対象及び方法
 症例は、全例男性で5例・5膝で手術時年齢は15歳~20歳、平均16.6歳であった。発症年齢は、13歳~16歳、平均14.8歳で、発症から手術までの期間は、0.5年~4年、平均1.8年であった。X線分類は5例ともSaupeの分類V型であった。手術は腰椎麻酔下に膝蓋骨外上方に約3cm皮膚切開を加え、分裂部を掻爬し可能な限り外側傾斜を整復、必要に応じて骨移植を行った。次にレントゲン透視下にガイドピンを刺入し、Marthin社のHBS×2本にて固定した。なお骨移植は膝蓋骨ならびに脛骨より4例に行った。後療法は約1~2週間のシリダーキプス固定を行い、疼痛の改善を待って荷重ならびに関節可動域訓練を開始した。初診時X線にて、分裂骨片の外下方への傾斜を認める症例があるため、検討項目として、中島ら1)の方法を用いて軸写像で外側関節面の接線と中心稜、外下端を結ぶ線のなす角を分裂骨片の傾斜角として計測した。
 結 果
 術前分裂部に認められた圧痛は全例軽減しており、骨癒合は経過観察期間の短い1例を除き、4例に認められた。X線計測において外側傾斜角は術前10°から17°、平均13.4°から、は術後、7°から12°、平均9.8°に改善した。
 代表的症例を供覧する。
患者
  35歳男性
主訴
  右膝関節痛

症例

  16歳 男性
主訴
  左膝外側部の疼痛
現病歴
  約1年前より誘因なくサッカーの運動時に左膝外側部に疼痛を認めており、近医にて保存的治療を受けたが症状に改善が認められず、今回手術目的にて当院紹介となった。
初診時所見:左膝外側部の圧痛を認めるが、明らかな大腿四頭筋の萎縮は認められなかった。
画像所見:単純X線像にてSaupeV型の分裂膝蓋骨を認め、MRIでは、分裂骨片は膝蓋外側関節面の1/3を占めており、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を分離部に認めた(図1)。
治療経過:腰椎麻酔下に膝蓋骨内側より骨移植を行いHBS×2本にて固定した。2週間のシリダーキプス固定を行い、関節可動域訓練を開始した。術後3ヵ月にて骨癒合完成(図2)、術後4ヵ月にて圧痛は消失しサッカーに復帰、術後5カ月にて抜釘術を行った。
軸写像
図2(軸写像)
 考 察
 有痛性分裂膝蓋骨の治療は、一般的に多くの症例は、スポーツ活動の休止ならび制限、大腿四頭筋のストレッチングを中心とした理学療法、消炎鎮痛剤の投与といった保存的治療にて軽快するが2)、一部の症例では手術を要する場合がある。手術療法には、骨片摘出術、経皮的ドリリング術、外側支帯切離術ならびに内固定材料を用いた観血的整復術等が多数報告されている。骨片摘出術は小骨片を摘出する場合においては、短期間でスポーツ復帰が可能である。半面、大骨片を摘出した場合、術後のアライメント異常に伴なう関節症性変化が危惧される。また経皮的ドリリング法も、他の手術法に比べ侵襲は軽いが、骨端線閉鎖後の症例においては骨癒合が得られにくい3) 4)。外側支帯切離術につては、Adachiら5)の良好な成績を報告している論文も散見されるが、外側広筋の筋力低下ならびに膝蓋骨のトッラキング異常といった報告もあり、慎重な適応が考えられる。一方、内固定材料を用いた観血的整復術は、1)骨端線が閉鎖しているが、年齢が10台から20台前半である。2)分裂骨片の大きさが外側関節面の1/3以上を占める。3)画像上、分裂骨片の壊死像ならびに関節軟骨の変性を認めない。以上の条件を満たしておれば、本手術の適応と考えている。最後に内固材料であるが、過去に少数ではあるが、Kirschner鋼線ならびに海綿螺子の折損が報告されている6)。今回使用したHBSは、従来のHerbert screwを改良したもので、1)両端のネジ山のピッチの差による圧迫機能を持ち、2種類の圧迫強度が選択可能である。2)Cannulated Self-Tapping Headless screwである。 3)長さは1mm間隔のサイズバリエーションがある。以上の特性を持つscrewのため、本疾患を治療する場合、有効な内固定材料であると考えている。
 まとめ
1) 有痛性分裂膝蓋骨5例・5膝に、Headless Bone Screw用いて観血的治療を行った。
2) 術前分裂部に認められた疼痛は全例改善しており、骨癒合は経過観察期間の短い1例を除き4例に認められた。
3) Headless Bone Screw用いた観血的整復術は、手術時年齢が15歳〜20歳台前半で骨端線が閉鎖しているが、分裂骨片の大きさが外側関節面の1/3以上を占める症例対して、有効な治療法である。
4) 本Screwは、両端のネジ山のピッチの差による圧迫機能を持ち、Cannulated Self-Tapping Headless screwであるため、分裂骨片を固定する場合、有効な内固定材料である。
 参考文献
1) 中島聡ほか:分裂膝蓋骨における膝蓋大腿関節面の適合異常についての検討. 整形外科と災害外科, 46:495- 500,1997.
2) 鶴田敏幸ほか:有痛性分裂膝蓋骨における治療成績とその成因に関する一考察. 日整スポーツ誌, 14:25- 31,2006
3) 井上恵介ほか:有痛性分裂膝蓋骨に対する経皮的Drilling. 整形外科MOOK 増刊2-F, :57- 61,1993.
4) 富原朋弘ほか:有痛性分裂膝蓋骨に対する経皮的ドリリングの治療成績. 日整スポーツ誌, 14:333- 337,2006.
5) Adachi N,et al:Vastus lateralis release for painful bipartite patella. Arthroscopy, 18:404- 411,2002.
6) 富田顕吾ほか:観血的治療を施行した有痛性分裂膝蓋骨8症例の検討. 北海道整災誌, 47:45- 49,2006.
Key words: Painful patella partite(有痛性分裂膝蓋骨)
Surgical treatment(観血的治療)
Headless Screw(ヘッドレススクリュー)

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society