関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
膝半月板嚢腫について,最近では鏡視下手術での良好な成績が報告されている.当科で経験した半月板嚢腫の手術所見から,その病態と治療法について検討したので報告する.
 対 象
 対象は1999年5月から2005年9月までの間に当科で観血的治療を施行した,半月板から発生したと考えられる膝半月板嚢腫6例6膝である.男性3例,女性3例,手術時平均年齢平均33.5歳(16‐54歳),術後平均観察期間は38.5ヵ月(6‐79ヵ月)であった.嚢腫の部位は内側半月板1例,外側半月板5例であった.
 症状は全例に膝痛を認めた.また腫瘤の自覚を3例に認め,disappearing sign陽性であった.全例にMRIを行い,T1強調像で低輝度,T2強調像で高輝度の腫瘤を認めた.
 膝関節鏡を施行し、全例に半月板断裂を合併していた.半月板断裂は,6例中5例は内側半月板の中節あるいは中後節部に生じており,断裂形態は変性を伴った水平断裂を5例に,縦断裂を1例に認めた.2例は半月板部分切除術の既往があり,切除後の半月板が再断裂を生じ,嚢腫を形成していた.変性を伴った水平断裂例では嚢腫に注入したインジコカルミンを断裂部に認め,関節腔と嚢腫との交通を確認できたが,縦断裂例では明らかな交通は示すことができなかった.関節鏡視上では嚢腫の腫瘤形成は確認できた例はなかった(図1).
 全例に半月板嚢腫に対しては嚢腫直上に切開を加え,直視下に切除を行った.半月板断裂に対しては関節鏡視下に5例に半月部分切除術を,縦断裂1例に縫合術を行った.
 結 果
 臨床成績(JOA膝半月板損傷判定)は,術前平均77.5点が最終調査時平均92.5点と改善し,術後MRIで明らかな腫瘤は確認できず,再発例は認めていない.縫合術を行った症例では,術後10カ月に再断裂し部分切除術を行った.

 以下に代表症例を呈示する.
 患者は47歳,男性.6年前より誘引なく左膝痛が出現し,1年前に当科で左膝内側半月板損傷に対して,半月板部分切除を行った.経過良好であったが,術後7ヵ月から左膝内側の違和感・疼痛が出現し,同部位に腫瘤を触れるようになった.初診時,内側関節裂隙に圧痛を認め,膝伸展位で内側に腫瘤を触知可能でdisappearing sign陽性であった.半月板徴候は陰性で,可動域制限は認めなかった.術前MR像では,内側半月板に水平断裂および半月板に接してT1強調像で低輝度,T2強調像で高輝度の腫瘤を認め,半月板実質にも同様の所見を認めた(図2).
 関節鏡視では,内側半月板中節に変性を伴った水平断裂を認めたが,関節鏡視から腫瘤は確認できなかった.腫瘤内にインジゴカルミンを注入すると,半月板との交通部からの流出を認めたため,変性した半月板断裂部脛骨側部を関節包辺縁まで切除し,交通路の掻爬を行った(図3).その後,内側の腫瘤直上に切開を加え,直視下に柔らかい被膜に覆われた腫瘤を確認し,可及的切除を行った(図4).また腫瘤内からはゼリー状の内容物の露出を認めた.術後早期に症状は軽快し,術後34カ月の現在,再発は認めていない.
図4
 考 察
 過去の報告によると,半月板嚢腫には全例に断裂が存在し,特に水平断裂が半月板嚢腫の形成に関与していると報告されている1).その断裂形態は,約63%に水平断裂を認めたとする報告もある2).
 嚢腫形成の機序について,半月板変性が外方へ伸展し嚢腫を形成する場合1)と,変性はなくとも断裂部に交通路を作り,関節液が外方に貯留することによって嚢腫を形成する場合3)があるとされている.本症例において,明らかな交通部を認めた水平断裂例ではこのような機序で嚢腫が形成されたと考えられた。一方,縦断裂例では最初の鏡視では明らかな交通部を認めなかったが、再断裂時の鏡視では変性があったことから、変性に伴う何らかの交通があったことが示唆された.
 半月板嚢腫の治療法は,Pedowitz4)によると,まず半月板断裂を認めるときは,鏡視下で断裂部の部分切除と嚢腫掻爬を行い,半月板断裂を認めないときは,直視下に嚢腫の可及的切除を行い、変性した半月板の切除および修復を行うとしている.しかしRegan5)は,直視下嚢腫切除の結果が鏡視下で行われる治療法よりも優れているとし,鏡視下のみで行われた約4割の症例で再発を認めたと報告している.
 半月板嚢腫の治療法について過去の報告をまとめて考察すると,まず半月板断裂を認めるときは,断裂部の部分切除が原則で,続いて嚢腫が鏡視下に確認できる場合,嚢腫の掻爬を追加する.確認できない場合は直視下に嚢腫の可及的切除を行うか,あるいは半月切除のみでよいとする報告もある.半月板断裂を認めないときは,嚢腫が鏡視下に確認できる場合は嚢腫の掻爬を行い,確認できない場合は直視下に嚢腫の可及的切除を行う.
 本症例では嚢腫が鏡視下に確認できなかったため,インジゴカルミンを用い,半月板との交通を確認してから半月板部分切除術を行い,全例において再発率を抑えるために,直視下で嚢腫の可及的切除を行った.
 まとめ
 当科で経験した半月板嚢腫の手術所見から,その病態と治療法について検討した.全例において,鏡視下半月板部分切除および直視下で嚢腫の可及的切除を行い,術後成績は良好であった.
 参考文献
1) Barrie, H.J. : The pathogenesis and significance of meniscal cysts. J Bone and Joint Surg., 61B : 184-189, 1979
2) Christophe, H., et al. : Arthroscopic treatment of 105 lateral meniscal cysts with 5-year average follow-up. Arthroscopy, 20 : 831-836, 2004
3) Ryu, R.K.N., et al. : Arthroscopic treatment of meniscal cysts. Arthroscopy, 9 : 591-595, 1993
4) Pedowitz, R.A., et al. : What would you do ? A surgical algoriyhm for treatment of cystic degeneration of the meniscus. Arthroscopy, 12 : 209-216, 1996
5) Reagan, W.D., et al. : Cysts of the lateral meniscus. Arthroscopy, 5 : 247-281, 1989
Key words:meniscal cyst, arthroscopy, treatment

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society