関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
会長挨拶 本研究会について 役員名簿 入会案内
Top Page
研究会誌投稿規定 研究会のお知らせ 関連学会・研究会のご案内
 はじめに
 MRI上、後十字靭帯(PCL)よりの発生と思われたガングリオンを、膝関節鏡視下に内側半月板後角よりの発生であると診断し治療したので報告する。
 症 例
患者
  35歳男性
主訴
  右膝関節痛

現病歴

  約10年前に野球でスライディングした後右膝関節痛があった。一時軽快していたが、約2年前より右膝関節違和感が続いていた。右膝関節の歩行時痛、階段昇降時痛が徐々に悪化し、近医より紹介された。
初診時所見
  右膝関節に発赤、腫脹、熱感は認めなかった。右膝関節内側後方に圧痛を認めた。関節可動域は右膝0〜128°、左膝0〜145°であった。大腿周囲径は右46.0cm、左47.4cm、下腿周囲径は右35.0cm、左36.3cmであった。右膝のhyper-extension testは陽性であった。McMurray test、 Apley test、Lachmann test、脛骨前方引き出し、後方引き出し等の徒手検査に異常は認めなかった。半月損傷治療成績判定基準のJOA scoreは右55点、左100点であった。
画像所見
  単純レントゲン像(図1)では右膝大腿骨内顆の内側側副靭帯付着部付近に剥離骨片を認めた。関節内には異常所見は認めなかった。MRIではPCLに隣接する腫瘤を認めた。腫瘤はPCLの後方、脛骨付着部付近に存在しT1強調像で低輝度、T2強調像で高輝度を示した(図2)。内側半月板中後節に水平断裂像を認めた。内側半月板と腫瘤には接触は認められず茎の存在は確認できなかった。
以上の所見より右膝内側半月板断裂、PCLガングリオン疑いで関節鏡を行った。
手術所見
  内側半月板の中後節に変性断裂像が認められ部分切除を行った。前十字靭帯、PCLに明らかな異常は認められなかった。PCLと大腿骨内顆の隙間より後方を鏡視したところ、PCLに隣接する腫瘤を認めた。プロービングしたところ腫瘤はPCLとは付着しておらず、内側半月板後角に付着しており茎が存在した(図3)。内側半月板の断裂部と腫瘤の交通は明かではなかった。腫瘤は後内側ポータルを併用しピースバイピースに切除した。切除時に腫瘤よりゼリー状の内容物の流出を認めた。後内側ポータルより腫瘤を完全に摘出したことを確認し手術を終了した。切除標本を病理検査したところ、ガングリオンと診断された。
術後経過
  術後6ヶ月でMRI検査を行いガングリオンの再発は認めなかった(図4)。現在術後2年10ヶ月経過しており、愁訴は全くなく右膝関節の可動域は0〜140°である。半月損傷治療成績判定基準のJOA scoreは両膝とも100点となっている。野球にも受傷前のレベルで復帰できている。
図2
図3
 考 察
 半月板ガングリオンを含む膝関節内の嚢腫様病変の頻度は膝関節鏡を実施したうちの0.4〜2.0%存在すると報告されている1)。膝半月板ガングリオンの好発部位としては外側に比べて内側に多く、内側半月板では後角、外側半月板では前節〜中節に多く発生するとされている2)。
 半月板ガングリオンには半月板断裂との関連が示唆されており、半月板ガングリオンのある症例のうち約91〜98%に半月板断裂を伴うと報告されている2)。今回の症例にも外傷歴があり、明かな交通は確認し得なかったものの半月板断裂を伴っており、半月板断裂が存在し断裂部より関節液が進入しガングリオンが発生したと推測される。
 LektrakulらはPCLガングリオンと酷似したMRI所見を示す内側半月板ガングリオンを10例報告しお互いの鑑別法とし1)内側半月板ガングリオンは半月板断裂を伴うこと、2)内側半月板ガングリオンには半月板からの茎が存在すること、3)内側半月板ガングリオンはPCL中央後方に多くPCLガングリオンはPCLの脛骨大腿骨付着部に多いこと4)内側半月板ガングリオンはPCLを全周性に取り巻くように存在することをあげている4)。今回の症例は、画像上は1)は満たしているが、2)〜4)は満たしておらず手術前はPCLガングリオンを疑っていた。また関節鏡視上も2)の茎の存在は確認できたが腫瘤はPCLの中央後方に位置しており3)、4)は満たしていなかった。
 半月板ガングリオンの成因が明かでなく、腫瘍説、先天性説、外傷説、変性説等諸説が存在する。再発の報告もあるため、Pedwittzら5)は半月板ガングリオンの手術術式として、半月板断裂を伴うものは関節鏡視下の半月板部分切除とガングリオンの摘出もしくは破砕による除圧術を行い、半月板断裂を伴わないものは再発を防ぐために膝関節を切開しガングリオンの摘出を勧めている。一方Sarimoら1)やNakagawaら5)は十字靭帯ガングリオンを含む膝関節内の嚢腫様病変はほとんど再発せず、関節鏡視下の切除で十分であると述べている。我々の症例はガングリオンとの明らかな交通はなかったものの半月板断裂を伴い、ガングリオンは関節内のみに存在し、鏡視下手術により完全に切除できたため膝関節切開による処置は行っていない。術後3年近く経過しているが再発はなく経過は良好である。
 半月板断裂をともなう関節内の半月板ガングリオンは鏡視下半月板部分切除とガングリオンの摘出で対処が可能であると考えている。
 参考文献
1) 1) Sarimo J, Rantanen J, Helttula I, et al. Intra-articular cysts and ganglia of the knee: a report of nine patients.
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2005; 13: 44-7
2) 2) McCarthy CL, McNally EG. The MRI appearance of cystic lesion around the knee. Skeletal Radiol 2004; 33: 187-209
3) 3) Lektrakul N, Skaf A, Yeh L et al. Pericruciate meniscal cysts rising from tears of the posterior horn of the medial meniscus AJR 1999; 172:1575-9
4) 4) Pedowitz RA, Feagin JA, Rajagopalan S. What would you do? A surgical algorithm for treatment of cystic degeneration of the meniscus. Arthroscopy 1996; 12: 209-16
5) 5) Nakagawa Y, Matsusue Y, Nakamura T. Ganglia of the posterior cruciate ligament. Bull Hosp Jt Dis 1998; 57: 165-8
Key words:Meniscal cyst, arthroscopy, pcl ganglion

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society