関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
大腿骨内顆W度軟骨損傷に対して骨穿孔術では症状軽快せず、自家骨軟骨移植術にて奏効した症例を経験したので報告する。
 症 例
患者
  39歳 女性
主訴
  右膝痛

既往歴

  強迫神経症があり、抗うつ薬、抗不安薬、催眠鎮静薬による内服加療施行されていた。前医での骨穿孔術が十分な治療であったにもかかわらず、強迫神経症による悪影響で、疼痛の訴えが続いているということも考えられた。
現病歴
  2003年11月21日右膝屈曲位にて転倒し、右膝内側部を打撲した。同日近医受診した。右膝内側部に疼痛があり、関節穿刺にて血性関節液を認めた。保存療法にて疼痛の軽減を認めず、某病院を受診。2003年12月関節鏡にて大腿骨内顆にW度軟骨損傷を認め、骨穿孔術施行された。骨穿孔術は直径1.2mmK-wireが使用され、穿孔部からは油滴を認めたが出血は確認されなかった。アウターウェッジを装用し経過をみるも疼痛軽減せず2004年5月10日当科紹介受診となる。
初診時現症
  初診時は歩行時右膝痛強く、松葉杖を使用し歩行していた。関節水腫は認めず、-5°の伸展制限を認めた。
画像所見
  単純X線では特に所見を認めなかったが、再構築CT、MRI(Fig.1)にて大腿骨内顆に骨軟骨病変を認めた。骨シンチグラフィー施行し、右大腿骨内顆に異常取り込み像を認めたため、症状は右大腿骨内顆の骨軟骨病変によるものと診断し、2004年7月6日手術を施行した。
関節鏡所見
  右大腿骨内顆にW度軟骨損傷(Fig.2)を、対峙する脛骨内側関節面にU〜V度軟骨損傷を認めた。右大腿骨内顆の軟骨損傷に対して自家骨軟骨移植術を施行(Fig.3)した(Centerpulse社Soft Delivery System使用)。骨軟骨プラグは右大腿骨内顆の非荷重部より直径7.45mmで2ヶ所採取。採取部には人工骨移植術(MMT社Neobone使用)を施行した。
術後経過
  後療法は2週間のニーブレース固定の後、可動域訓練開始した。荷重については、通常のACL再建術よりはやや遅らせて5週で1/3荷重、7週で全荷重を許可した。
伸展制限と伸展時痛が残存し、これに対して術後5ヵ月で再鏡視を施行した。
Fig.3「術中所見」
Fig.4「病巣部病理組織像」
 考 察
骨軟骨欠損部に対する治療としては、骨穿孔術(Microfractureを含む)、Abrasion Arthroplasty、自家骨軟骨移植術、培養軟骨細胞移植術などが挙げられる。骨穿孔術は病巣部を掻爬し、K-wireなどで軟骨下骨を貫き、骨髄組織を誘導することにより、骨軟骨欠損部を繊維軟骨組織で修復する治療法である。繊維軟骨組織は硝子軟骨組織に比べて、バイオメカニカルに劣っており、また、1998年のICRS(International Cartilage Repair Society)のレポートで、術後1〜5年と短中期成績ではあるが、骨穿孔術、abrasion arthroplasty、自家骨軟骨移植術の比較研究において、自家骨軟骨移植術は約80〜85%の症例に症状の改善が得られ、5年まで成績が維持されていたが、骨穿孔術は成績が維持されず、経時的に成績が悪化したと報告されている1)。しかし、2001年にSteadmanらは骨穿孔術(Microfracture)において、スポーツへの復帰率75%との良好な臨床成績を報告しており2)、また、自家骨軟骨移植のようにドナーサイトの問題などがないことからも、骨穿孔術は見直されている。0.5〜3cu大のW度軟骨損傷に対する治療として、骨穿孔術は経済的で、特殊な器械が不要で、良好な臨床成績が得られるとの報告2) 3)から当科では第一選択的に施行している。前医での骨穿孔術による治療で症状の軽快がみられなかった原因として、当科における自家骨軟骨移植術施行時に病巣部より採取した骨軟骨柱の病理組織検査(Fig.4)において、骨形成、軟骨形成を一部認めたものの、その量が十分ではなく軟骨欠損部を被覆するに至らなかった箇所と、軟骨欠損部に骨形成、軟骨形成を認めない箇所があり、初回骨穿孔術の深さ、範囲が共に不十分であったという手技的な問題があった可能性が示唆された。また、強迫神経症が既往にあり、前医での治療が十分な治療であったにもかかわらず、その効果が被覆されてしまった可能性も考えられた。
当科における治療に際し、再度、骨穿孔術を施行することも考慮されたが、2回目の手術であり、より確実な症状の改善が望まれたことから、自家骨軟骨移植術を施行した。自家骨軟骨移植術の問題点として、骨軟骨プラグ採取部位の問題があるが、本症例においては、採取部位によるものと思われる症状はなく、再鏡視の所見においても、採取部位に移植した人工骨の表面には繊維軟骨組織による被覆がみられ、対峙する軟骨の損傷もみられなかった。
本症例は、前医で行われた初回の骨穿孔術の手技的な問題が示唆される教訓的な症例であるが、骨穿孔術のポイントとして、損傷軟骨を軟骨下骨層まで十分郭清すること、欠損軟骨の大きさを正確に把握すること、直径1.5mmのK-wireで1平方センチメートルあたり約10ヶ所の深さ1.5cmの穿孔を行うこと、病巣部より出血を確認することが挙げられる4)。
 まとめ
骨穿孔術後経過不良であった大腿骨顆部軟骨損傷の1例を経験した。前医における骨穿孔術の深さ、範囲が共に不十分であったという手技的な問題があった可能性が示唆され、教訓的な症例であった。自家骨軟骨移植術にて症状軽快し、経過良好である。
 参考文献
1) News Letter, International Cartilage Repair Society. Spring Issue, 1998.
2) Steadman,J.R.et al.: Microfracture ; surgical technique and rehabilitation
to treat chondral defects. Clin Orthop. 391: 362-369, 2001
3) Bouwmeester P.S.J.M. et al.: A retrospective analysis of two independent prospective cartilage repair studies: autogeous perichondrial grafting versus subchondral drilling 10 years post-surgery. J Orthopaedic Reseach. 20: 267-273, 2002
4) 堀部秀二.: 膝骨軟骨損傷に対する骨穿孔術(microfractureを含む). 関節外科. 24: 275-280, 2005

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society