関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
 今回、我々は高位脛骨骨切り術施行後に創外固定で用いたスタインマンピンが原因と思われる金属アレルギーを生じた1例を経験したので若干の考察を加え報告する。
 症 例
患者
  51歳男性
主訴
  右膝関節痛

既往歴・家族歴

  平成元年、右膝内側半月板損傷に対し、鏡視下半月板部分切除術施行されている。アレルギー疾患の既往はなかった。
現病歴
  平成15年8月頃より右膝関節痛出現し他医にて加療されていたが、同年9月22日当科紹介受診し、変形性膝関節症と診断した。
理学所見
  右膝関節可動域は伸展−10°、屈曲125°、OA膝治療成績判定基準では60点であった。
血液検査所見
  特に異常所見認めず、白血球の好酸球分画も5.7%と正常範囲内であった。
画像所見
  初診時単純X線像では脛骨大腿関節の内側関節裂隙の狭小化を認め、立位FTAは182.5°であった(図1−a)。
手術方法
  以後外来にて保存的加療を行うが奏功しないため、平成16年4月30日全身麻酔下に高位脛骨骨切り術を施行した。脛骨近位をドーム型に骨切りし、骨切り部の近位と遠位に術後FTAが167°になるような位置でスタインマンピンを1本ずつ挿入した後に創外固定器を装着し圧迫固定を行った(図1−b)。
術後経過
  術後経過は良好であったが、術後4週目よりスタインマンピン刺入部からの浸出液が増大し、X線像では骨切り部外側に骨吸収像が少し認められた。浸出液の細菌培養検査では菌は検出されなかった。しかしCRPが4.9と上昇したため局所の熱感や発赤は認めなかったものの感染を疑い抗生剤の投与を開始した。術後6週でCRPは0.9に低下したが、この頃より患部に掻痒感を伴う発疹が出現し、X線像では骨切り部外側に仮骨の形成を認めたが、内側にも骨吸収像が認められるようになってきた。術後7週では左下腿にも掻痒感を伴う発疹が出現し、X線像では骨切り部外側の仮骨は増大していたが、骨切り部は偽関節様の所見を呈していた(図2−a)。術後2ヶ月で創外固定の側方移動がみられたため固定性が不良であると判断し、創外固定器及びスタインマンピンを抜去した(図2−b)。このとき、CRPは0.3に低下していたが、末梢血の白血球分画は8.1%と高値を示した。スタインマンピン抜去後、掻痒感は消失したが、軽度持続するため皮膚科受診したところ金属パッチテストが施行され、その結果スタインマンピンの主成分であるクロム、ニッケルを含めほとんどの物質で陽性を示した(図3)。この結果、金属アレルギーと診断された。術後6ヶ月の時点でFTA174°と矯正不足であるが骨癒合は完成し(図2−c)、アレルギー症状も消失している。
図1-b 「術後X線像」
図2-a 「術後7週X線像」
図2-c 「病術後6ヶ月X線像」
図3 「パッチテストの結果」
 考 察
 現在、整形外科領域では骨接合用金属としてステンレス、チタン合金などが生体内に使用されているが、それらから溶出される金属に対する生体反応はしばしば金属アレルギーといった形で発生し、掻痒感を伴う皮疹や発赤を生じる。骨接合材による金属アレルギーの報告は1967年Mckenzieらにより初めて報告され1)、それ以降、国内でも報告例が散見される2)。
骨接合材による金属アレルギーの発生機序としては骨接合材が体内で体液によりイオン化され、吸収された金属イオンが血行性あるいはリンパ行性に全身の皮膚に到達し、その部位で感作リンパ球と反応して皮疹を生じると考えられている3)。原因金属としてはクロムが多く、その理由としてクロムは他の金属に比べて尿中に排泄されにくく、組織に蓄積されやすいという性質がある4)。
骨接合用金属によるアレルギーの診断として岡田らは1.手術前に蕁麻疹などアレルギー反応を起こしやすいという既往がない、2.皮膚症状が長く続き、通常の治療で治りにくい、3.金属除去後、速やかに症状が消退する、4.金属の構成成分のあるものに対し、パッチテストが陽性にでる、5.末梢血に好酸球増加がみられることがある、の5項目をあげている5)。今回用いたスタインマンピンの主成分はクロム、ニッケル、モリブテン、マンガン、銅、鉄である(表1)が、本症では金属パッチテストにてそれらのうち鉄以外に陽性を示した(項目4に該当)。また本症例はCRPの上昇、末梢血の白血球分画の上昇、ピンからの浸出液の増加、X線における骨切り部及びピン周囲の骨吸収像を呈していたことから感染を疑ったが、ピン抜去後、骨吸収像の消失、骨癒合の進行、皮膚症状の改善を認めたことから軽い感染の合併があったとは思われるものの、金属アレルギーと診断した(項目2、3、5に該当)。高位脛骨骨切り術で創外固定器を用いたときに金属アレルギーを発症した場合の対策としては抗ヒスタミン剤の投与を開始し、改善が得られなければスタインマンピンを抜去し、ギプス固定へ変更するか再手術を施行するのが望ましいと思われる。
 まとめ
高位脛骨骨切り術後に金属アレルギーを生じた1例を経験した。骨接合材として金属材料を用い、術後無菌性の炎症と皮膚症状が続く場合は金属アレルギーの存在を念頭におく必要がある。
 参考文献
1) Mckenzie, A.W. et al.: Urticaria after insertion of Smith-Petersen Vitallium nail. Br. Med. J., 4:36, 1967.
2) 持田和伸ほか:骨接合用金属によると考えられた汗疱様皮疹の1例. 皮膚, 35(16):291−296, 1993.
3) 伊藤正俊:金属による接触皮膚炎. アレルギー・免疫, 9(6):24−31, 2002.
4) Rogers, G.T.: In vivo production of hexavalent chromium. Biomaterials,5:244−245, 1984.
5) 岡田恭司ほか:骨接合用金属によるアレルギー症状を呈した脛骨骨折例. 整形外科,  36(4):551−556, 1985.
Key words:Allergic Reaction to Metal, high tibial osteotomy

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