はじめに |
今回、我々は高位脛骨骨切り術施行後に創外固定で用いたスタインマンピンが原因と思われる金属アレルギーを生じた1例を経験したので若干の考察を加え報告する。 |
|
症 例 |
|
|
|
考 察 |
▼ |
現在、整形外科領域では骨接合用金属としてステンレス、チタン合金などが生体内に使用されているが、それらから溶出される金属に対する生体反応はしばしば金属アレルギーといった形で発生し、掻痒感を伴う皮疹や発赤を生じる。骨接合材による金属アレルギーの報告は1967年Mckenzieらにより初めて報告され1)、それ以降、国内でも報告例が散見される2)。
骨接合材による金属アレルギーの発生機序としては骨接合材が体内で体液によりイオン化され、吸収された金属イオンが血行性あるいはリンパ行性に全身の皮膚に到達し、その部位で感作リンパ球と反応して皮疹を生じると考えられている3)。原因金属としてはクロムが多く、その理由としてクロムは他の金属に比べて尿中に排泄されにくく、組織に蓄積されやすいという性質がある4)。
骨接合用金属によるアレルギーの診断として岡田らは1.手術前に蕁麻疹などアレルギー反応を起こしやすいという既往がない、2.皮膚症状が長く続き、通常の治療で治りにくい、3.金属除去後、速やかに症状が消退する、4.金属の構成成分のあるものに対し、パッチテストが陽性にでる、5.末梢血に好酸球増加がみられることがある、の5項目をあげている5)。今回用いたスタインマンピンの主成分はクロム、ニッケル、モリブテン、マンガン、銅、鉄である(表1)が、本症では金属パッチテストにてそれらのうち鉄以外に陽性を示した(項目4に該当)。また本症例はCRPの上昇、末梢血の白血球分画の上昇、ピンからの浸出液の増加、X線における骨切り部及びピン周囲の骨吸収像を呈していたことから感染を疑ったが、ピン抜去後、骨吸収像の消失、骨癒合の進行、皮膚症状の改善を認めたことから軽い感染の合併があったとは思われるものの、金属アレルギーと診断した(項目2、3、5に該当)。高位脛骨骨切り術で創外固定器を用いたときに金属アレルギーを発症した場合の対策としては抗ヒスタミン剤の投与を開始し、改善が得られなければスタインマンピンを抜去し、ギプス固定へ変更するか再手術を施行するのが望ましいと思われる。 |
|
|
|
|
まとめ |
▼ |
高位脛骨骨切り術後に金属アレルギーを生じた1例を経験した。骨接合材として金属材料を用い、術後無菌性の炎症と皮膚症状が続く場合は金属アレルギーの存在を念頭におく必要がある。 |
|
|
参考文献 |
1) |
Mckenzie, A.W. et al.: Urticaria after insertion
of Smith-Petersen Vitallium nail. Br. Med. J., 4:36, 1967. |
2) |
持田和伸ほか:骨接合用金属によると考えられた汗疱様皮疹の1例. 皮膚, 35(16):291−296, 1993. |
3) |
伊藤正俊:金属による接触皮膚炎. アレルギー・免疫, 9(6):24−31, 2002. |
4) |
Rogers, G.T.: In vivo production of
hexavalent chromium. Biomaterials,5:244−245, 1984. |
5) |
岡田恭司ほか:骨接合用金属によるアレルギー症状を呈した脛骨骨折例. 整形外科,
36(4):551−556, 1985. |
|
|
Key words:Allergic Reaction to Metal, high tibial osteotomy |
|
|
|