関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
膝半月における前後角の脛骨付着部は、半月自体が荷重分散機能を担う上で重要な解剖学的要素であるとされている。この部位での剥離骨折については、過去の報告では渉猟しえず、非常に稀な損傷と考えられる。今回、我々は外側半月後角剥離骨折を合併した新鮮前十字靭帯(ACL)損傷膝の一例を経験したので報告する。
 症 例
患者
  27歳 女性
主訴
  右膝痛

既往歴

  H14年よりうつ病にて内服治療中
現病歴
  H15/5/18 車道を横断中、車にはねられ受傷した。近医に搬送され右脛骨顆間隆起骨折と診断され5/26当院紹介受診し入院となった。
初診時現症
  右膝には軽度腫脹、熱感を認めた。膝関節可動域は0~120°であり、深屈曲にて疼痛を認めた。Lachman testは陽性であったが、後方や内外反への不安定性は認めなかった。
画像所見
  単純X線においては右膝正面像にて顆間隆起に剥離骨折と側面像にて腓骨頭に骨折線を認めた(図1−a,b)。CTにては顆間隆起部に比較的小さい骨片を認めた。MRIでは、冠状断において脛骨顆間隆起に骨片を認めた。T2*強調像(矢状断)にてACL実質部に高輝度変化があり(図1−c)、外側半月後角の内部には、ほぼ全域に高輝度陰影を認めた。ACL損傷によく合併する骨挫傷は認めなかった。以上より剥離骨折を伴うACL損傷+外側半月損傷と診断し関節鏡視下に靱帯再建術、観血的整復固定術さらには半月手術を計画した。
関節鏡所見
  ACLは大腿骨側で大部分の線維が断裂していた(図2−a)。この断裂した靱帯を切除すると、骨片には外側半月板の後角と後方線維束(PLB)の1部が付着しているのが観察された(図2−b)。外側半月実質には損傷を認めず、内側コンパートメントや膝蓋大腿関節にも損傷を認めなかった。術式は、まず外側半月―剥離骨片複合体の処置を行った。骨片に付着する一部のACL線維を切除し、半月後角−剥離骨片移行部にsuture punch用いて2-0プロリンを一旦通し、それを用いて1−0Ethibond糸にリレーした。骨片の母床部に脛骨前面より骨孔を作成する予定であったが、この部分はPLBの骨孔と近接するため、ACL再建術において使用する骨孔を作成し、PLB用骨孔を若干拡大しエチボンド糸を通して脛骨前面にpull-outした。術中x線と鏡視下にて骨片と外側半月板後角の整復状態を確認してからEndobuttonを用いて脛骨前面に結紮固定した。その後、半腱様筋腱を用いてACL再建術(解剖学的な2重束再建)を施行した(図3)。
術後経過
  後療法は2週間のニーブレース固定の後、可動域訓練開始した。荷重については、通常のACL再建術よりはやや遅らせて5週で1/3荷重、7週で全荷重を許可した。
伸展制限と伸展時痛が残存し、これに対して術後5ヵ月で再鏡視を施行した。
関節内所見
  再建靱帯の緊張と太さは良好であった(図4−a)。整復された骨片は鏡視上確認できなかったが、外側半月は、本来の位置にあり、後角の固定性も良好であった(図4−b)。ACLの脛骨付着部前方に滑膜病変を認め、これを切除したところ伸展制限は改善した。
術後6ヵ月後のCTでは骨癒合が認められている(図5)。機能的にも問題なく患者は日常生活に復帰している。
図3「術式」
図4「術後5ヶ月後鏡視所見」
 考 察
1) 病態
本例では、ACL脛骨付着部剥離骨折と比較して、骨片が小さくやや後方に位置すること、ACL自体に高輝度陰影を認めることなど、典型的な顆間隆起骨折とはやや異なる所見を有していた。このため、術前には、ACLの前内側線維束が大腿骨側で断裂し、後外側線維束が脛骨剥離骨折を生じたものと推測した。しかしながら、関節鏡所見では骨片には外側半月後角全体とACLのPLBの一部が付着していた。ACLの大部分の線維が大腿骨側にて断裂していることや剥離骨片への付着の程度から考えて、本症例の骨片はACLの牽引により生じたものではなくむしろ外側半月後角の牽引によって生じたものであることが推測された。
2) 診断
本例の手術後にMRI画像を再検討した。通常、正常例では、MRI冠状断において、外側半月後角から脛骨へ付着する低輝度の線維が認められる。本症例ではT2*冠状断でこの線維を含めた半月後角全体が高輝度信号を呈していた。このため、剥離骨片と半月後角の連続の有無を確認しえず、術前から本病態を正確に把握するのは困難であったと考えられた。
3) 過去の報告
新鮮ACL損傷には、外側半月後節の損傷が少なからず合併することが知られている。Cerabanaらは急性のACL損傷に合併する半月損傷102症例の損傷型を分類し、外側半月板損傷は後角もしくは後節に高頻度に生じると報告している。しかしながら、これらは半月実質の断裂や後角付着部の剥離であり、本症例のような剥離骨折の報告例は見出せなかった。さらに、外側半月前角(Cerabana)1)や内側半月(Pauly)2)においても、剥離損傷の報告は散見されたが、剥離骨折の報告は見いだせなかった。以上のことより、本症例は非常に稀な症例であると考えられた。
4) 治療法
半月の荷重分散機能は、荷重に抗して発生するhoop stressが重要であるとされているが、これには主に外周縁方向に走行するコラーゲン線維を含んだ半月体部と、脛骨上に強固に錨着する付着部が重要な役割を占める。半月自体が正常であっても脛骨付着部が破綻している場合、半月の荷重分散機能は著しく低下することが予想され、同部位の修復が望まれる。外側半月の後角部の損傷に対する治療としては、1995年にShinoら3)がpullout固定法を報告している。この術式は、後角近傍の弁状断裂に対し、通常のHenning法に加え弁状部分に縫合糸を締結しこれを脛骨前面より外側半月後角付着部のやや後方に作成した骨孔を用いてpullout固定する方法である。術後の再鏡視にて良好な治癒が確認されている。本症例でもこれに準じた固定を試みた。ただ、本例では作成すべき骨孔位置がACL再建のPLBの骨孔と近接するため、新たに骨孔を作成せず、PLBの骨孔を利用して脛骨前面に固定した。本法により、術中に良好な整復が得られ、また半年後のCTでも骨癒合を確認できた。さらに鏡視所見でも外側半月後角は、脛骨に良好に錨着されていた。本例のような後角付着部が破綻している症例に対する本術式は半月の機能を温存する上で、大変有用な方法であると考えられた。
 結語
外側半月後角剥離骨折を合併した新鮮ACL損傷膝の一例を経験した。
 参考文献
1) Cerabona F, Sherman MF, Bonamo JR, Sklar J.; Patterns of meniscal injury with acute anterior cruciate ligament tears. ;Am J Sports Med. 1988 Nov-Dec;16(6):603-9.
2) Pauly T, Van Ende R. ; Avulsion fracture. Special type of meniscal damage;Arch Orthop Trauma Surg. 1989;108(5):325-6.
3) Shino K, Hamada M, Mitsuoka T, Kinoshita H, Toritsuka Y;Arthroscopic repair for a flap tear of the posterior horn of the lateral meniscus adjacent to its tibial insertion.;Arthroscopy. 1995 Aug;11(4):495-8.
4) Andersen JW, Mejdahl S.;Bilateral fracture of the tibial spine; Acta Orthop Belg. 1993;59(4):394-7.

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