抄 録 |
hypermobile lateral meniscusの2例を経験し,MRI所見の診断的意義をretrospectiveに検討した.症例1は29歳,男性.明らかな誘因なく右膝関節の引っ掛かり感と疼痛が出現した.MRIで半月板実質の損傷は認めなかったが,日常生活に支障をきたすため関節鏡視を施行した.鏡視所見では膝窩筋腱溝の拡大と周囲の滑膜炎を認め,外側半月板後節が大腿骨外顆を乗りこえる異常可動性を認めた.hypermobile
lateral meniscusと診断し,半月板制動術を施行した.症例2は17歳,男性.バレーボールで右膝を捻った後から,膝関節の屈曲時に嵌頓症状が出現するようになった.MRIで明らかな半月板実質の損傷は認めなかったが,嵌頓症状を繰り返すため関節鏡視を施行した.鏡視所見では,外側半月板の異常可動性と,脛骨側冠靭帯の断裂を認めた.hypermobile
lateral meniscusと診断し,症例1と同様に半月板制動術を施行した.retrospectiveにMRIを確認すると,症例1では膝窩筋腱溝の拡大が認められ,症例2ではJohnson3)らの言うinferior
fascicle(coronary ligament)の欠損が認められた.これらの所見は,関節鏡所見とほぼ一致しており,MRIはhypermobile
lateral meniscusの術前診断に有用であると思われた. |
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はじめに |
hypermobile lateral meniscusは一般的には関節鏡視下に診断されるが,術前診断は困難である.この度2例ではあるが,我々が経験したhypermobile
lateral meniscusの症例をもとに,術前のMRI所見がどの程度本症の病態を反映していたかを,関節鏡所見との比較からretrospectiveに検討したので報告する. |
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症 例 |
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症例1:29歳,男性.主訴は右膝関節屈曲時の引っ掛かり感および疼痛である.平成13年4月頃から明らかな誘因なく,正座やあぐら座りの時に右膝関節の引っ掛かり感と疼痛が出現した.その後,階段昇降時の疼痛も出現したため6月に当科を初診した.理学所見では,右膝関節の腫脹や水腫は認めず,膝関節可動域は0度〜80度で,それ以上の屈曲は不安感が強く困難であった.外側関節裂隙に圧痛を認め,McMurray
testは疼痛のため検査不可能であった.右膝単純X線像で異常所見は無く,MRIでも明らかな半月板実質の損傷は認めなかった(図1-a,b).疼痛が続き日常生活動作に支障をきたすため,平成13年9月に関節鏡視を施行した.腰椎麻酔下では膝関節の可動域に制限は認めず,McMurray
testで外側関節裂隙にclickを認めた.鏡視所見では,膝窩筋腱溝の拡大およびその周囲の滑膜炎を認めた(図1-c).また,プロービングで外側半月板後節が大腿骨外顆を乗り越える明らかな異常可動性を認めた(図1-d,e).さらに,あぐらの肢位で同様に外側半月板の異常可動性が再現された(図1-f,g).以上よりhypermobile
lateral meniscusと診断し,拡大した膝窩筋腱溝を縫縮し,半月板の制動術を行うために,まず膝窩筋腱溝の周囲をラスピングし,半月板を後外側の関節包にinside-out法にて縫合した(図1-h).術後は3週間のギプス固定後,関節可動域訓練および荷重歩行を開始した.3ヶ月後再鏡視を施行したが,縫合部は生着しており外側半月板の異常可動性は認められなかった.術後経過は順調で,関節可動域に制限はなく,日常生活動作における疼痛・引っ掛かり感は消失した. |
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症例2:17歳,男性.主訴は右膝関節の嵌頓症状である.平成13年6月バレーボールでレシーブをしようと飛び込んだ時に右膝痛が出現した.その後,疼痛はあるも運動の続行は可能であった.しかし右膝関節の深屈曲時に嵌頓症状を繰り返すため,同年10月に当科を初診した.初診時には明らかな異常所見は無く,MRIでも半月板実質に明らかな損傷は認められなかった(図2-a,b).経過観察をしていたが,膝関節屈曲時の疼痛および嵌頓症状が持続するため平成14年3月に関節鏡視を施行した.鏡視所見では半月板実質部に損傷は認めなかったが,外側半月板の後節から中節にかけて,あたかもバケツ柄断裂が存在するかのように,大腿骨外顆を乗り越え前方に移動する明らかな異常可動性を認めた(図2-c).また半月板下面からの観察にて,膝窩筋腱溝部の脛骨側冠靱帯の断裂を認めた(図2-d).以上よりhypermobile
lateral meniscusと診断し,症例1と同様に半月板の制動術を施行した.術後は3週間のギプス固定後,関節可動域訓練および荷重歩行を開始した.術後経過は順調で,嵌頓症状などの自覚症状は消失した. |
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考 察 |
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関節鏡視下において,外側半月板後節に異常可動性を認める病態に対してhypermobile
lateral meniscusと命名した報告が散見される.hypermobile lateral
meniscusは比較的深い膝関節屈曲位での疼痛と嵌頓症状・膝崩れ・脱臼感などをきたす.その病因は
外傷による半月板周辺断裂または不全治癒の状態によるものや,木村ら1)が報告している脛骨側冠靱帯の損傷または欠損,膝窩筋腱溝の拡大,Simonianら2)が報告しているpopliteomeniscal
fasciclesの損傷または欠損などがあげられる.我々の症例では鏡視下において,2例ともに外側半月板後節が大腿骨外顆を乗り越える異常可動性が認められたためhypermobile
lateral meniscusと診断した.さらに症例1では膝窩筋腱溝の拡大,症例2では脛骨側冠靭帯の断裂所見が認められ,共に過去に報告されている病因と一致するものであった.しかしhypermobile
lateral meniscusの術前診断は困難であり,過去の報告でも画像所見などの有用性は明らかでない.1999年Johnsonら3)は,MRIにおける
popliteomeniscal fasciclesについて模式化して詳細に報告している(表1).この報告に基づき我々の症例のMRIをretrospectiveに検討すると,症例1では連続する3スライスにおいて膝窩筋腱溝の拡大がみられ(図3-a),症例2では連続する3スライスにおいてJohnsonらのいうinferior
fascicle(coronary ligament)が欠損していた(図3-b).このMRI所見は鏡視下で実際に認められた所見とほぼ一致していた.これらよりhypermobile
lateral meniscusの術前診断に,MRIは有用であると考えられた.また過去に報告されているhypermobile
lateral meniscusの治療法は(1)半月板後節の部分切除(2)半月板の全・亜全切除(3)制動術((4)鏡視のみで放置)などがある.しかし半月板切除では将来の関節症変化が危惧されるため,近年半月板温存の立場から制動術が推奨されている.我々の症例も制動術を施行したが,症例1は術後20ヶ月の時点において症状は消失し,症例2も術後13ヶ月の現在症状は消失している.いずれも満足すべき経過をたどっているが,今後更なる長期の追跡が必要であると思われた. |
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文 献 |
1) |
Kimura,M.et al. :Anatomy and pathophysiology
of the popliteal tendon area in the lateral meniscus.Arthroscopy
8:419〜427,1992.Skeletal Radiol |
2) |
Simonian,P.T.et al. :Popliteomeniscal
fasciculi and the unstable lateral meniscus;clinical
correlation and magnetic resonance diagnosis. Arthroscopy
13:590〜596,1997. |
3) |
Johnson,R.L.et al.:MR visualization
of the popliteomeniscal fascicles.Skeletal Radiol
28:561〜566,1999. |
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Key words:hypermobile lateral meniscus,
magnetic resonance imaging, coronary ligament |
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