はじめに |
脛骨高原骨折に対して,最小侵襲手術(Minimally
invasive surgery)として透視下に,あるいは関節鏡を用いて陥没部を関節外より打ち上げる手術法については近年国内外で報告されている.1)しかし,受傷後半年近く経過した陳旧例に同様の手術を行った報告は渉猟し得た限りではない.ここでは受傷後5ヶ月と9ヶ月を経た2症例に対し,陥没関節面を打ち上げるべく手術を施行したので,その方法について詳述する. |
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手術法 |
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一般的な本手術はまず,関節内を十分に洗浄し,必要であればシェーバーを用いる.鏡視下に半月損傷があれば部分切除あるいは縫合を行う.続いて患肢をイメージ透視下とし,脛骨プラトーにイメージを合わせる.皮膚切開は脛骨陥没部同側の斜め皮切とし,外側陥没では脛骨高位骨切術に準じて脛骨粗面外側を展開する.関節裂隙より末梢3・の側面中央に15×20mm程度の開窓を作成する.同部より,弯曲ノミを挿入し,陥没骨折部全周に渡って骨切りを行う(図1).その際,骨切りはイメージ下に軟骨下骨ぎりぎりの高さまで行う.そして,打ち込み棒を用いてイメージ下に打ち上げるが,側面イメージを十分に参考とするのが良い. |
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軟骨下骨にできた骨欠損部には人工骨ハイドロキシアパタイト/ブロックを支柱状に設置するが,大きさを調整しやすくした割線つきハイドロキシアパタイト(ペンタックスK.K:B-29:以下HA)を用いる.その後,必要に応じ,Cannulated
screw,Buttress plateなどで固定する.2) |
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後療法 |
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術後1週間,ギプス固定を行うこともあるが,多くの場合不要である.早期に可動域訓練開始し,全荷重開始は術後3ヶ月からとした. |
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症 例 |
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症例1:62歳女性,主訴は左膝外反変形と可動域制限. |
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現病歴:平成14年6月,自転車で車と接触し受傷.某医でK-wireによる整復とギプス固定7週が行われたが整復不良であった.その後,FTA166°と外反変形が進行し,可動域制限もみられるようになったため,受傷後5ヶ月で初診となった. |
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来院時理学所見:可動域は,右膝(健側)屈曲130°伸展0°,左膝(患側)屈曲80°伸展0°,FTAは右176°,左166°で,左膝に外反動揺性を認めた. |
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入院時画像所見・診断:初診時の単純X-P(図2)では,左脛骨の外顆中央部に約30mm陥没を認め,CTでは,外顆中央部が落ち込み,複雑な粉砕骨折を呈していた.前壁後壁は保たれていた.陳旧性脛骨高原骨折・Hohl分類3)type3と診断した. |
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関節鏡所見:外側半月の前方Backet Handle
Tearを認めた.(図3左)はPartial
meniscectomy後である.陥没部は数個の骨片に分かれており,軟骨表面は強いfibrillationがみられた. |
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術後経過:イメージ下整復後に欠損部にはHAB挿入し,前腕橈骨用プレート(Buttress
plate)で内固定をおこなった(図4).術後も膝拘縮が強い為,術後20日で関節鏡,膝授動術を施行した.鏡視では棚上げ部分は軟骨のfibrillationを認めたが,骨片間の間隙はみられず,良好な関節面が形成されていた(図3右). |
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症例2:62歳女性,主訴は右膝関節痛と外反変形. |
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現病歴:平成10年2月バイクで転倒し膝関節損傷を受ける.某医で約6週間ギプス固定を受けた.その後,歩行時に激しい疼痛とロッキング症状を認めるようになった為,受傷後9ヶ月で当院初診となった. |
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来院時理学所見:膝関節可動域は,右膝(患側)屈曲120°伸展-10°,左膝(健側)屈曲150°伸展0°,FTAは右164°,左180°で,右膝に外反動揺性を認めた. |
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入院時画像所見・診断:単純X-Pでは右脛骨の後外側陥凹20mmを認めた.CT及び3D-CTでは脛骨外顆中央から後方の関節面の落ち込みがみられた.MRIでは外側半月板の嵌頓所見を認め,さらにロッキング症状があったことから,半月板損傷を伴った陳旧性脛骨高原骨折・Hohl分類type3と診断した. |
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関節鏡所見:外側半月は,円板状半月であり,体部の付着部から前角へのBacket
Handle Tearを認めた.Partial meniscectomyを行うと,脛骨顆部後方は大きく落ち込んでいるのを確認できた.イメージ下に側面イメージを重視し陥没部を打ち上げ,整復した.HAB充填後にCannulated screwで打ち上げた整復骨片を支えるように挿入固定した. |
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術後経過:術後X-PではHAの下縁でスクリュー固定され,関節面は持ち上げられていた.手術後約1年,抜釘時にsecond
lookを行った.軟骨面はスムーズで,半月もリ・モデリングされていた.抜釘後の単純X-Pでは,術前の関節面の落ち込みは改善,MRI像でも軟骨関節面はHAにて持ち上げられ,また,軟骨下での壊死も生じていなかった. |
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結 果 |
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症例1では現在リハビリテーション中であるが,伸展0°屈曲100°の可動域が獲得されさらに改善が望める状態であり,症例2では,伸展0°屈曲120°が可能でADLに問題はない. |
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考 察 |
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脛骨高原骨折の新鮮例に対しては透視及び鏡視下に打ち上げる手術法については数多く報告されている.これまでの報告のように新鮮例では,イメージ下に骨片を打ち上げることは比較的容易であったが,本症例のように数ヶ月が経過した陳旧例での整復は初めての試みである.今回,陥没周辺を幅1cm以下の小さな湾曲ノミを全周性に骨切りを入れることにより整復が可能であるとの治験を得た.また,これまでにも陳旧性高原骨折に対しての報告はみられるが,TKAや高位脛骨内反骨切術が選択されている4)5).新鮮例と比べて,イメージ下に弯曲ノミをコントロールする為に開創部を若干大きくとる必要があるが,その他の手技においてはほぼ同様である.この手術では,術前計画に際し3D-CT,CT断層撮影,MRIが有用であり,実施にあたり関節鏡に充分習熟することが必須であるのは言うまでもない. |
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まとめ |
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関節鏡・イメージガイド下に整復固定を行った陳旧性脛骨高原骨折の2例を報告した.
脛骨高原骨折の陳旧例に対しても,開創部を工夫し骨切を行うことで打ち上げは可能であり,関節面を温存できた. |
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参考文献 |
1) |
楊仲仁,糸数万正:高齢者の脛骨プラトー骨折低侵襲手術(関節鏡の応用)新OS
NOW13メジカルビュー社 133-140,2002. |
2) |
Itokazu M et al. Use of arthroscopy
and interporous hydroxyapatite as a bone graft substitute
in the tibial plateau fractures. Arch Orthop Traum
Surg 115:45-48, 1996. |
3) |
Hohl M et al. Articular fractures
of the proximal tibia. In Evarts CM, editor: Surgery
of the musculoskeletal system, ed 2, New York, 1990.
Churchill livingstone. |
4) |
長谷川克純ほか:脛骨下部骨折の治療.整形外科51巻13号:1629-1635,
2000. |
5) |
Gerich T. et al:Knee joint prosthesis
implantation after fractures of the head of the
tibia.Unfallchirurg;104(5):414-9, 2001 May. |
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Key words:tibial plateau fracture,
arthroscopy |
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