関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
 大腿部筋挫傷後に生じる骨化性筋炎は柔道やサッカーなどのスポーツ選手にまれに見られることがある.著者らは治療に難渋している膝関節骨化性筋炎の一例を経験したのでその臨床経過を呈示し,若干の文献的考察を加えて報告した.
 症 例
症例は28歳の男性.高校2年時,柔道練習中に左大腿部内側の筋損傷を受傷するも放置,徐々に可動域制限が進行した.約1年後,同部位の腫瘤に気づきA病院で腫瘤摘出術を受けたが,その2ヶ月後より再び可動域制限が出現,膝関節周囲に広範な異所性骨化を生じた.大学進学後,B病院にて膝関節骨化性筋炎と診断された.骨化が進行中であったため約2年間経過観察され,X線にて骨化が停止したと確認された大学3年時(95年1月)に手術目的にて当科を紹介された.
既往歴,家族歴に特記事項はない.
初診時の理学所見では,左膝近位部内側皮下に骨性隆起を触知し,その直上に約10cmの手術痕を認めた.左膝関節可動域は屈曲65°,伸展-15°と著しく制限されていた.血液生化学検査所見では血清アルカリフォスファターゼがわずかに高く,CPKの軽度上昇も認めた.初診時のX線検査では大腿骨近位内側から前面にかけて巨大な異所性骨化を認めた(図1).前医における過去1年間のX線像と比較して骨化の進行は認めなかった.CTでは内側広筋の深層に大腿骨と接するように異所性骨化が生じていた.また膝関節のレベルでは膝蓋骨の内側から膝蓋腱まで骨化が生じていた.MRIではT1強調像で骨化部に皮質骨と脂肪髄と思われる高信号強度を認め,成熟した骨組織と判断された(図2).骨シンチグラムでは骨化部に一致した集積像を認めた.
発症から約3年が経過しており,またX線,MRI,血清アルカリフォスファターゼ値などから異所性骨は成熟したものと判断し,異所性骨の切除術を施行した.前回の皮切部位から進入し,大腿骨後面で血管に接する一部を除き可及的に切除を行った.切除後,術中の最大屈曲角度が120°に達したことを確認した.切除骨の病理組織検査では層板構造を持つ皮質骨と脂肪髄を認め,成熟した骨組織と考えられた.
術直後からCPM訓練を開始し,またビスフォスフォネートの投与を行った.しかし,術後4ヶ月で可動域制限が再発し,X線上も再骨化を認めた.再骨化は骨切除部位に一致して生じ,術前よりもさらに増悪した(図3).可動域制限も進行し,左膝は屈曲-40°の角度で線維性強直状態となった.
再骨化に対して,骨シンチグラムによる活動性の評価を経時的に行った(図4).術後6年を経過した01年頃より,ようやく活動性の低下と集積範囲の減少が認められるようになってきたが,まだ完全に沈静化しておらず,今後の治療に難渋しているところである.
 考 察
骨化性筋炎は1832年Hasseにより最初に報告されたが,その後に騎手の大腿内側に生じるrider's boneが話題となり,広く認知されるようになった1).近年では格闘技やサッカーなどによる大腿部の筋挫傷後に生じるスポーツ傷害のひとつとして知られる疾患である.文献上,骨化性筋炎はmyositis ossificans,rider's bone以外にもheterotopic bone formation,traumatic periosteal proliferations,fibrodysplasia ossificans traumatica,ossifying hematoma,myo-osteosisなど多くの名称で呼ばれてきた.Samuelson5)は発症要因からmyositis ossificans progressiva(遺伝性),myositis ossificans traumatica or circumscripta(外傷性),acquired myositis ossificans(神経疾患由来),pseudomalignant myositis ossificans(非外傷性)に分類した.本症例のようにスポーツ中の筋挫傷後に生じるものはmyositis ossificans traumaticaに属する.
外傷性骨化性筋炎が最も多く発生する部位は大腿部で,外傷性骨化性筋炎の約50〜75%を占める.その理由は,大腿部がとくに骨化を生じやすいと言うわけではなく,単に筋挫傷の頻度が高い部位であることが理由と思われる.また上肢では上腕筋に多く発生し,全体の1/3近くを占めると言われる.
外傷性骨化性筋炎の病因には諸説がある2).筋挫傷に加えて近傍の骨膜損傷がある場合にのみ生じるとする意見や骨膜・骨組織由来の骨形成因子の存在が重要との意見もあるが,一方で,それらは必要条件ではないとする報告もある.他にも壊死組織内の石灰化に対して誤った治癒機転が働いたという説やlow-grade infectionが筋のmetaplasiaを引き起こした結果という説もあるが,いずれも確定的なものではない.
臨床面から見ると,Jacksonら4)は筋挫傷後に外傷性骨化性筋炎が生じる危険因子として,程度の強い筋挫傷,筋腱移行部近傍での損傷,損傷の繰り返し,受傷早期の可動訓練の4つをあげている.また年齢も重要な要因で,フットボールを例に挙げると高校生や大学生には高頻度に認められるがプロフットボール選手にはほとんど発生しない.筋・骨膜組織の成熟性や強度が成人発症を妨げている可能性がある.そして,治療においては早期の手術治療が状態を悪化させる大きな要因のひとつとされている.
外傷性骨化性筋炎の治療として,急性期にはRICEに加えて血腫吸引や患部への局注などの効果が報告されている.骨化が明らかになるとインドメタシンの投与と筋挫傷時に準じた緩やかな自動可動域訓練などを行うのが良いとされる.他にもビスフォスフォネートの投与や低用量放射線治療などの報告があるが,いずれも早期の症例に効果が高い.長期間経過して疼痛,可動域制限,機能障害が残存する場合は外科的切除を検討する.外科的治療の適応は,6ヶ月以上経過しており,骨化が成熟していることである.未成熟な時期に外科的侵襲を加えると早期に骨化の再発をきたす.骨化成熟の判断基準は,
1. X線像で骨増殖の停止を確認
  2. MRIで異所性骨内の脂肪髄の確認
  3. ALPの正常化
  4. 骨シンチの正常化
などがあげられる.
本症例については,発症後4年以上経過しており,前医で施行した過去1年間のX線検査で骨増殖が停止していたこと,MRIで異所性骨内の脂肪髄が確認できたこと,ALPがほぼ正常に近かったことから異所性骨は成熟したものと考え骨切除術を施行した.術中採取した異所性骨は病理組織検査で成熟していたことが確認されたにもかかわらず,術後早期に再発を認め現在に至った.術前,唯一陽性を示していた所見は骨シンチグラムであり,再発後は同検査による経時的追跡を行い,経過観察をおこなった.
骨シンチグラフィーは,X線検査ではまだ骨化が不明瞭な時期に病態を描出することが可能であることから,外傷性骨化性筋炎の早期診断に有用とされる.一方で,Kalenakは骨化の成熟度を知る指標として,経時的に骨シンチグラフィーを行い骨切除時期のタイミングを決定することを勧めた3).骨シンチグラムで2回以上正常あるいはそれに近い取り込み量を示した場合に,異所性骨が成熟したと考え手術に踏み切るというものである.本症例においても,手術時に骨シンチグラフィーによる成熟度判定を重視する必要があったと考えられた.本症例は現時点でまだ完全に取り込みが正常化したとは言えず,2回目の手術には至っていない.
 まとめ
治療に難渋している膝関節骨化性筋炎の1症例を経験した.本症例の経過から,骨成熟度の判定にはX線検査,MRIによる脂肪髄の確認,ALP値正常化に加えて骨シンチグラムによる活動性低下の確認が重要であると考えられた.
 参考文献
1) Ackerman LV. Extra-osseous localized nonneoplastic bone and cartilage formation (so-called myositis ossificans); clinical and pathological condition with malignant neoplasm. J Bone Joint Surg 1958; 40A: 279-98.
2) Finerman GAM, Shapiro MS. Sports-induced soft-tissue calcification. In: Leadbetter WB, Buckwalter JA, Gordon SL, editors. Sports-induced inflammation: clinical and basic science concepts. Park Ridge, AAOS; 1989. p 257-75.
3) Huss CD, Puhl JJ. Myositis ossificans of the upper arm. Am J Sports Med 1980; 8: 419-424.
4) Jackson DW, Feagin JA. Quadriceps contusions in young athletes. J Bone Joint Surg 1973; 55A: 95-105.
5) Samuelson KM, Coleman SS. Nontraumatic myositis ossificans in healthy individuals. JAMA 1976; 235: 1132-3.
Key words:myositis ossificans, knee joint, and recurrence

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