関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
 肩甲骨棘上窩ガングリオンは比較的まれな疾患である.近年,これによる疹痛と棘下筋の麻痺症状を有する症例に対する治療法の報告が散見される.今回,我々は肩関節鏡視下にガングリオン除圧術を施行したので報告する.
 症 例
23歳,男子大学生,バスケットボール部,右利き.主訴は,バスケットでの右肩運動時痛と安静時の痛だるい感覚.
現病歴:2000年7月,バスケット中に右肩痛出現した.以後挙上時痛があり,次第に肩甲帯のだるさ,安静時痛を伴うようになった.前医にて関節内注射等受けるも効果持続せず,2001年4月,当科初診.右棘下筋に筋萎縮と筋力低下を認めた.可動域は,左右差なく,正常範囲であった.その他,impingement sign等の理学所見は陰性であった.
画像所見:単純レントゲンでは,明らかな異常はなかった.超音波検査・MRIともに,初診時には嚢腫陰影は認めなかった.MRI所見では,上方関節唇損傷のみ認めた(図1).関節内ブロックテストで効果を認めたため,腱板訓練などの理学療法を行った.症状の改善がなく,痛だるさが増強したため,6ヵ月後に再度MRI施行した.棘上窩にT2強調画像で高輝度の腫瘤像を認めた(図2-a,b).斜位前額断で,関節近傍のsupinoglenoid notchから棘上窩まで約4cmに渡り広がっていた.筋電図所見では,患側で筋活動の低下を認めた.これらの所見より,棘下筋麻庫を伴う棘上窩ガングリオンの診断で,鏡視下に除圧術を選択した.
術中所見:上方関節唇損傷は10時から1時方向に及んでいた(図3-a).関節唇損傷部をプロービングし,辣上筋部をミルキングしても内容液の流出はなく,損傷部関節唇をdebridementしても内容液の流出は認めなかった(図3-b).後上方の関節包を部分切除すると淡黄色ゼリー状の内容液の流出を認めた(図4-a).約7mmの開口部を作成した(図4-b).内部は薄い皮膜に覆われており(図4-c),病理組織所見は,myxoid changeを伴うcollagenous fibrous tissueで,ガングリオンに一致する所見であった.
術後経過:術後6週間のMRIでは,水腫を認めるものの,関節内への交通が認められ,除圧効果が残存している(図5).術後10週の現在,痛だるさは消失したが腱板筋力がまだ不十分なため,スポーツヘは復帰していない.JOA scoreは84点(術前74.5点)で,改善傾向を示している.
図2-a
 
図2-b
図5「術後6週間のMRI(T2) 斜位前額断」
 考 察
棘上窩ガングリオンに対する治療について,麻痺症状の軽い場合は経過観察もありうるが,日常動作の支障や電気生理学的異常が認められた場合には,外科的治療を行うべきである.近年,より侵襲の少ないエコー1)やCT,MRIなどのガイド下での穿刺の報告がある.エコーとCTガイド下での計10例1,2)の報告では,2ヵ月から2年のFollow upで再発率は20%とされている.穿刺自体の問題点は,神経損傷と再発であるとの指摘がある.一方,直視下に肩甲上窩にアプローチし,ガングリオン摘出を行うことも選択の一つである.鏡視下除圧術は,Iannotti3)の報告以後いくつかの報告4,5)があり,それぞれ良好な成績を残している.ガングリオンの位置が,spinoglenoid notchに存在せず,棘上窩のみであるものも5%あると報告されており,この様な症例では関節内からの鏡視下除圧は適応外であるが,ガングリオンの広がりが関節近くまである例において,我々は再発と侵襲の点を考慮し,鏡視下除圧術を選択している.
一方,棘上窩ガングリオンや関節唇嚢腫と,関節唇損傷との関連に関しては様々な意見がある.棘上窩ガングリオンが存在する場合,関節唇損傷を高率に伴うとする報告が多いが,合併率が50%であったとする報告もある.また,ガングリオンに伴う損傷関節唇の扱いについて統一されていない.半月板嚢腫の場合は,ワンウェイバルブを考慮し損傷半月板を切除するのが一般的であるが,棘上窩ガングリオンにおける関節唇損傷は,SLAP lesion typeIIと同様に,縫合を加える報告3)が多い.しかし,Fehrmanら4)は関節唇損傷部のdebridementで,ほぼ良い成績を報告しており,確立されていない.我々の過去の経験5)では,鏡視所見上ガングリオンと関節唇損傷とが離れており,関節唇損傷の理学所見が陰性であった2例に対し,損傷部を処置せず放置したが,術後JOA scoreは99点と100点に改善が得られた.今回の症例は術中所見において,関節唇損傷部とガングリオンとの交通はなかったが,ガングリオンを認めなかった時期の局麻剤ブロックテストが陽性で,関節唇損傷も愁訴に関連していると考えdebddementを加えた.
また,ガングリオンによる神経圧迫に対する除圧は,これらの過去の報告3,4)と我々の経験5)より,必ずしも直視下摘出を要さず,鏡視下除圧で充分な除圧効果が得られていると考えられる.
 まとめ
 肩甲上神経麻痺を伴う,棘上窩ガングリオンに対し,肩関節鏡視下に後上方関節包より開口させ除圧術を行った.術後2ヵ月で,痛だるさは消失し,症状軽快している.
 文 献
1) Hashimoto, B. E., et al. : Sonographic diagnosis and treatment of ganglion cysts causing suprascapular nerve entrapment. J Ultmsound Med., 13 : 671-674, 1994.
2) Winalski, C. S., et al. : Interactive magnetic resonance image-guided aspimtion therapy of a glenoid labral cyst. J Bone Joint Surg., 83-A : 1237-1242, 2001.
3) Iannotti, J. P., et al. : Case report. Arthroscopic decompression of a ganglion cyst causing suprascaplar nerve compression. Arthroscopy, 12 : 739-745, 1996.
4) Fehrman, D. A., et al. : Casereport. Suprascaplar nerve entrapment by ganglion cysts : A report of six cases with arthroscopic findings and review of the literature. Arthroscopy, 11 : 727-734, 1995.
5) 緑川孝二ほか:鏡視下に除圧を行った肩甲骨疎上窩ガングリオンの2例. 肩関節, 24:265-269,2000.
Key words: arthroscopic decompression, suprascapular neuropathy, infraspinatus muscle weakness, ganglion cyst in the suprascapular & th espinoglenoid notch, labral tear

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