関西関節鏡・膝研究会誌ーOnline Journal
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 はじめに
 発症原因が明らかでない,大腿骨外穎軟骨下骨折を伴ったと思われる膝関節炎の一症例を経験したので報告する.
 症 例
症例:41歳,男性.職業はNTTの営業マン.身長175cm,体重100kg.
現病歴:平成13年9月初め,急に立ち上がった際に左膝を捻り,以後自制内の左膝痛が残存.11月に入って疹痛増強したため,11月14日初診.
既往歴:平成12年8月,転倒,右前膝部強打により右後十字靭帯皿度損傷受傷,装具により保存的に加療.その他,高尿酸血症を指摘されていたが放置していた.飲酒はビールを1日に350ml程度.喫煙歴なし.ステロイド服用歴なし.
初診時所見:
1. 理学所見体温
36.6°.収縮期血圧144mmHg,拡張期血圧76mmHg.局在不明の左膝痛で安静時痛,夜間痛あり.歩行時痛,階段昇降時痛が著明であった.ROMは健側の0°〜140°に対し,5°〜135°.Q角は左右差なく10°.徒手的に内・外反,前・後方引出し不安定は存在しなかった.
2. 血液検査所見
CBC正常,生化学では尿酸値が8.1mg/dl,食後2時間後の血糖値が138mg/dlとやや高い値を示した以外は正常であった.炎症反応はCRPが0.70と微増していたが血沈は30分値,1時間値がそれぞれ3mm,5mmと正常範囲内にあった.
3. 関節液所
見色調は淡黄色,pH7.8,比重は1.030,細胞数は660/μ1で分類に異常なかった.尿酸ナトリウムは陰性であったが,遠沈後の塗沫標本にてピロリン酸カルシウムを認めた.
4. 画像所見
初診時の単純X線正面像ではFTA178°で関節裂隙の狭小や石灰沈着を認めずほぼ正常であるが,同側面像では大腿骨,膝蓋骨のPF関節軟骨下骨に強い骨萎縮を認めた(図1).
入院までの経過:痔痛増強のため初診より5日後も破行を呈して再来.穿刺による15mlの漿液性関節液排液後,局所麻酔剤による関節洗浄にても痔痛が軽減しなかった.本人の希望もあり安静,精査目的のために初診より1週あとに入院となった.
入院中検査と診断:
1. MRI
冠状断T2強調脂肪抑制像(図2-a)では大腿骨外穎にびまん性の高信号領域を認め,後方を中心として軟骨下骨部分に線状の特に高い信号像を認める.矢状断T2強調像(図2-b)では大腿骨後方関節面下にリング状の低信号に囲まれた等信号領域を認める.膝蓋骨には著明な信号変化は存在しない.ACL,PCL,半月板には異常を認めない.
2. 骨シンチグラム
正面像では膝蓋骨に中等度の,左大腿骨外穎にはびまん性に強い集積像を認める.側面像では大腿骨骨幹端以遠および膝蓋骨近位2/3に強い集積を認める(図3).
3. 関節鏡(腰椎麻酔下)所見
大腿骨外穎病巣部に軟骨面の凹みを認めたが軟骨の連続性は保たれている(図4).前十字靭帯及び半月板に異常なく,膝蓋軟骨も軽度のfrayを認めるのみであった.
4. 診断
以上より大腿骨外穎の軟骨下骨折,或いは骨壊死の初期と診断した.
入院後経過と後療法:
1. 症状と後療法
関節鏡施行後免荷としたが外固定は行わず,ADL上必要なROMは許可した.痕痛および腫脹とも漸減した.免荷の効果か,夜間痛,安静時痛も2週(初診より4週,発症より6週)でほぼ消失した.仕事の都合で4週の入院後退院.4週の免荷の後,2本杖下荷重開始,6週より1本杖としたが痛み,腫脹の再発はなかった.1本杖は6ヵ月まで使用し,以降杖なしとしたが,症状の再発はなかった.
2. 画像所見
鏡視後12週での単純X線像(図5)では大腿骨,脛骨,膝蓋骨に強い骨萎縮を認めるが大腿骨外穎の病巣部の存在は明確でない.一方,鏡視後14週でのMRI(図6)では冠状断T2強調脂肪抑制像においてびまん性の高信号はほぼ正常化しているものの,大腿骨外穎に孤立した高信号領域が認められる.また矢上断T2強調像においても範囲は縮小しているが,依然リング状の等信号領域を認める.

図1

 
 考 察
本例は外反膝を伴わない大腿骨外穎に何らかの原因で軟骨下骨骨折,或いは骨壊死が発生したものと考えられるが画像上その鑑別は困難である.病巣部は大腿骨外穎後方に存在しているため歩行時痛,荷重時痛にはなり難く,痛みの主原因は関節炎など他に存在する可能性が高い.
本例はピロリン酸カルシウム陽性であるが,一般に偽痛風は高齢者に多く,診断基準であるX線上の石灰沈着1)なども認められないので,偽陽性とも考えられる.しかし偽痛風を引き起こす原因に外傷や手術侵襲などもあり,青・壮年者でも発症することがあり1),本例でも発症より約4週で関節炎症状が消退したことをあわせると偽痛風の自然経過とも考えられる.
一方で局所麻酔剤による関節洗浄にても痛みが殆ど軽減せず,夜間痛,安静時痛が持続したことは痛みの主原因が関節炎だけでなく骨髄圧の上昇が考えられる.T2強調脂肪抑制MRI像における大腿骨外穎のびまん性の高信号は骨のミネラル濃度上昇を反映し2,3),骨髄圧上昇の一因になったものと考えられる.
本例は軟骨下骨折或いは骨壊死が引き金となり,偽痛風による関節炎と骨髄圧上昇が合併し,前者は自然経過の中で,後者は免荷により痛みが軽減したものと考えた.またX線の骨萎縮は廃用性によるもの4,5)と考えた.
 まとめ
1. 42歳男性の関節炎を伴った,原因不明の,大腿骨外穎軟骨下骨骨折或いは骨壊死初期と考えられた1症例を報告した.
2. 骨シンチグラム上の強い集積及びT2強調脂肪抑制MRI像上の高信号は病巣周辺の広範囲にわたる骨変化を表現しているものと考えられた.
 文 献
1) Hollander, J. L., McCarty, D. J. : Arthritis and allied conditions 8thed, Lea&Febiger, Philadelphia, 1140-1160, 1972.
2) Vogler III, J. B., Murphy, W. A. : Bone marrow imaging. Radiology, 168 : 679-693, 1988.
3) Wilson, A. J., et al. : Transient osteoporosis, transient bone marrow edema? Radiology, 167 : 757-760, 1987.
4) Bonica, J. J. : Causalgia and other reflex sympathetic dystrophies. The management of pain 2nded, ed by Bonica, J. J., Lea&Febiger, Pennsylvania, 220-243, 1990.
5) 水関隆也ほか:反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の病態と診断. 骨・関節・靭帯, 9:1173-1188,1996.
Key words:gonitis, transient marrow edema syndrome, subchondral fracture

Copyright 2003 Kansai Artroscopy and Knee Society